*

医師が明かす。インフル治癒証明書が「よくない」理由

公開日: : 最終更新日:2015/01/15

救急医をしていて、おかしいなと思っていることがあります。
「インフルエンザ明けの診断書(治癒証明書)」です。

この書類、患者さんのためにならず、会社のためにもなりません。

企業が「インフルエンザが治った患者に、治癒証明書を取りに再受診させる」のは、医学的に誤った判断であり、
いまだにそんな制度を残している企業が多い日本の現状を見ると、国や病院、医師からの啓蒙活動が足りていないと感じます。

さて、理由は次を見てみてください。

 

誰のため??治癒証明書…

file000403840597

・患者Aさんの心の声
「インフルエンザ、しんどかった…」
「1週間休んで仕事が山積みなのに、また診断書だけもらいに病院行くの、面倒だなぁ」

・企業の心の声
「Aさんが1週間仕事に穴を開けたのは痛手だが、無理して出勤されても周りに感染するので、仕方ないな」
「ところで本当にもう治ったのか?治りかけで出勤されて、他の社員が感染すると困るから、診断書をもらいに行かせよう」

 

どこが問題なのでしょうか?
それは、病院では「インフルエンザが治ったこと」を証明できないというところにあります。

インフルエンザを診断する検査キットはあるのですが、これはインフルエンザが治ってからも当面は陽性(病気です! という判定)になり続けてしまいます。
盲腸の手術をして盲腸が治った後も、手術の傷跡はしばらく目立ち続けるのと同じです。

それでは、何をもって「インフルエンザが治った」と言えるのでしょうか。
一般的には「解熱状態が48時間以上続いたこと」とされています。
それだけ経てば、周囲への感染力が十分低下するので出勤しても大丈夫、ということです。

すると、病院では「おととい解熱したので、もう48時間たちました」と言う、患者さんの言葉を信じて治癒証明書を書くしかありません。
どうしても仕事を休みたくない患者さんが、まだ解熱から6時間しか経っていないのにそれを隠していても、その言葉を信じるしかないのです。
そんな「治癒証明書」にどこまで意味があるのでしょうか。

患者さんの言葉を信じるのであれば、証明書なしでそのまま出勤してもらっても同じように思えてしまいます。

それとも、医者は患者を信じるけれど、企業は自分の社員を信じていないということなのでしょうか…??

 

インフルエンザに感染。その後のあるべき姿

というわけで、目指すべき社会の姿としては、こう考えます。

・インフルエンザになったら、一旦病院を受診するか、自宅で安静にして治す
・もし病院を受診したのであれば、その時点でインフルエンザと診断されたことが証明できる書類をもらっておく(検査の結果コピーや、タミフルなどインフルエンザ薬の処方箋でも可)
治ったら(=解熱が48時間続いたら)、病院を受診する必要はなく、自己判断でそのまま出勤して良い
・企業としても、上記(治ったら自己判断の出勤で良いこと)を理解しており、それで周囲に感染しないことが認識できている

 

なお正確には、「解熱状態が48時間(幼児は72時間)」かつ「最初の発熱から5日間」の両方を満たすことが、出席(出勤)可能の条件とされています(学校保健安全法)。
実際の企業や学校では、毎日体温表をつけさせて、それを治癒証明書代わりに提出させるところもあります。
それで十分どころか、その方が、治癒証明書をもらいに行くよりもメリットが大きいのです。
病院受診による余計な感染のリスクを避けられますし、会社としても半日早く出勤してもらえます。

不必要な受診が避けられれば、患者さんも、企業も、病院も、みんなハッピー。
医療費も削減されて国もハッピーな、はずなのですが。

 

「インフルエンザの治癒証明書をもらいに来る患者さん」には何の問題もないのですが、「医学的には意味のない治癒証明書をもらいに行かせる企業」や「十分な情報提供ができていない医療サイド」には、何かしらの不足があるのではないでしょうか。

必要な情報が、あるべきところに届かない。
この現状を改善しなければならないと、思っています。

『関連記事』
医学生が救急外来を受診して気付いた医療現場の優しい空間

医療者が死生観を決めつけることへの違和感ー研修医の提言①

データ活用による医療の透明化が医療の質の改善に繋がる

【Facebookページで最新記事を配信しています】

関連記事

Screen Shot 2015-01-06 at 9.26.00 AM

患者視点から描く 新しい医療のしくみ

 夢は新しい医療のしくみの構築 M-Laboで記事を書かせて頂くことになった慶應義塾大学の

記事を読む

MAY

認知症改善への道すじ【私達を支える看護学番外編】

看護学研究の世界へようこそ! 全5回にわたる私達を支える看護学シリーズ。反響戴きました皆様に感謝の

記事を読む

02IMG_3629

医療を変える「デザインの力」

「アート×医療」とか「建築×医療」とかそういうキーワードが流行り始めてきている中、どうしても実感が沸

記事を読む

y56-0

離島の医者にプライベートはあるのか

離島の医者と言うと…「町中で患者さんから声をかけられる」「患者が自宅に押しかけて来る」そんな感じでし

記事を読む

猫

うつ伏せで寝ることの効果と裏づけ【私達を支える看護学②】

看護学研究の世界へようこそ! 私達を支える看護学シリーズ第2弾です!前回は「寝たきりの人の生活を変

記事を読む

mountain-climb

山を下る時代がやってきた!

先日、ある市長の話を聞く機会があった。   その市長は、   山を下る時代がやってきた!

記事を読む

WS000112

データ活用による医療の透明化が医療の質の改善に繋がる

メディアが未来を変えるには?そんな話題で5月にMITメディアラボ×朝日新聞シンポジウムが行われた。そ

記事を読む

167482128-doctor-stethoscope-628x363

医療制度を様々な立場から考えてみよう ~患者、医師、薬剤師~

What is 混合診療? A氏(50代男性)は重症のがん患者。他に治療法はないと言われている

記事を読む

neko

床(とこ)ずれと予防

「床ずれ」とは? 私達は普通、無意識のうちに眠っている間は寝返りをうったり、長時間椅子に座

記事を読む

icon_512 のコピー

国立と私立における医学部の教育意義の違いとは

初めまして、九州大学医学部6年の上松と申します。今回医学部を卒業するということもあり記念にという意味

記事を読む

IMG_3141
医師に英語は必要か?

医師に英語は必要か? 医者であれば、英語を話せて当たり前じゃない

IMG_0047_rs
治験を紹介されるまでに知っておきたい、メリット・デメリットの考え方

Medical Warriorsの代表である長谷山貴博。治験に

e98e5089cd6e99f5f2528c6b61d167fa195cb8af
難病患者による、難病患者のための「Dr.NEAR」クラウドファンディング開始

難病患者さんがどんなことに困っているか知っていますか? 前に、人

寿司??
「米1粒の寿司握れ」これが医師採用試験!?医学生の反応や病院側の求める人材とは?

こんにちは。医学生の大塚勇輝です。 先週、Yahooニュースのト

www_aisei_co_jp_Portals_0_images_pages_user_efforts_magazine_HGM17_pdf
全ページが中吊り広告!?『ヘルス・グラフィックマガジン』の作製者に聞く、熱のあるフリーマガジンの作り方

「なんだ・・・このクオリティーの高さは!」このフリーマガジンを見たほと

→もっと見る

PAGE TOP ↑