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病気になったら、日記をつけよう

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看護学生になったばかりの頃、「闘病記を読みなさい」と教わりました。図書館の闘病記コーナーに行き、本を開いてみると、患者さんの体温や鼓動まで伝わってきそうな文章に引き込まれました。「私も大病をしたら本を書こう」と、縁起でもない決意をしてしまいました。

看護学生3年目、大病ではありませんが、思いがけない病気が見つかりました。命に関わらないとはいえ、実習しながらの外来通院、初めての入院、全身麻酔下手術は苦痛を伴いました。

支えてくれる家族、信頼できる医療者、話を聞いてくれる友達がいたにも関わらず、「自分と他人とのあいだには決して越えられない壁がある」と実感することも多かったです。病気が見つかって以来、何をしていても自分だけが世界から隔絶されているようなさみしさを感じていました。

そんな私が1つだけ自信を持って言えるのは、

「病気になったら、日記をつけよう」

です。ここでいう「病気」とは、大きなケガなども含む「医療の介入を要する状態」と捉えていただければと思います。

日記をつけたからといって、病気が治るわけではありません。でも日記は、つらい日々を少しでも快適に過ごすための助けとなってくれます。無理をする必要はありませんが、興味を持たれた方には、ぜひ試していただきたいと思います。

この記事では、私が考える日記のメリットについて述べた上で、「患者の日記は社会の財産になる」というお話をします。

日記をつける5つのメリット

以下の項目について、詳しく書いていきます。
1. 好きなだけ感情を表現できる
2. 考えを整理できる
3. 備忘録として使える
4. 入院中の暇つぶしに最適
5. 読み返すと自分でも驚くほど学びが深まる

1. 好きなだけ感情を表現できる

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最大のメリットは、何といっても好きなだけ感情を表現できることです。

病気になると、自分でも訳がわからないほど色々な感情が溢れてきます。しかし、他人に向けて表出するのは容易ではありません。「医療者の前では緊張してうまく話せず、家族や友人の前では努めて明るく振る舞ってしまう」という患者さんは、ずいぶん多いのではないでしょうか。

努めて明るく振る舞ってしまう理由は人それぞれですが、大きく分けて3つ考えられます。1つ目は、相手に迷惑をかけたくないから。2つ目は、弱みを見せるのが恥ずかしいから。3つ目は、気持ちをわかってもらえないと落胆したり傷ついたりするからです。

しばしば3つ目が厄介です。家族や友人の優しい言葉が、かえって患者さんを傷つけてしまうことがあります。

「大変なのはわかるけど、前向きに頑張ろうよ」
「いつまでも落ち込んでたら、治るものも治らないよ」
「医学は進歩してるんだから大丈夫だよ」
「病気になったことにも意味があるんじゃないかな」

このような励ましに元気づけられる人もいるかもしれませんが、傷つく人も多いです。これらは自分で自分に言い聞かせる言葉であって、他人から言われたいものではありません。相手に悪意がないとわかっているからこそ、返事に困ってしまいます。そして「自分と他人とのあいだには決して越えられない壁がある」と実感するのです。

そんなとき救いとなるのが日記です。日記は完全に自分だけの空間なので、どんなに感情をぶつけても、誰にも迷惑をかけません。SNSやインターネット上の掲示板と異なり、プライバシーに配慮する必要もありません。何を書いても絶対に咎められないので、本当に正直な気持ちを綴ることができます。

日記は、ネガティブな感情を流す下水道のような役割を果たすだけではありません。病気だからといって、常に暗い気持ちでいるわけではないからです。嬉しかったことや感動した出来事を記しておけば、幸せな時間を記憶に留めることができます。

2. 考えを整理できる

「考えを文章化すると整理できる」というのは、よく聞く話です。ごちゃごちゃしていた考えがスッキリまとまると、気持ちも穏やかになってきます。

病気の日記に関して言えば、「どうして治療を受けるのか、自分なりに考えて納得しやすくなる」というメリットがあると思います。例えば、「医師に勧められた手術を受ける」という結果は同じであっても、「医師に勧められたから受ける」のか、「自分なりに考えて納得したから受ける」のか。このプロセスの違いが重要です。

納得できないことや決めかねていることがあったら、とりあえず日記に書いてみましょう。家族や医療者とのコミュニケーションも大切ですが、時には1人で静かに考える時間も必要だと思います。

3. 備忘録として使える

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病気の経過や、病院で言われたことを書き留めておけば、備忘録として役立ちます。

例えば「1週間ぐらい激しい運動は控えるようにと言われた」「新しい薬を飲んだら少し気持ち悪くなったが、2時間ほどで自然に収まった」などは大切な情報なので、忘れないうちに書いておくのが得策です。

とりわけ通院の間隔が長い場合、日記が威力を発揮します。久しぶりの受診時に、日記に基づいて順序よく経過を話せば、医師との会話がスムーズになります。また、書かなければ忘れてしまうような些細な変化が重要な手がかりになるかもしれません。

4. 入院中の暇つぶしに最適

ここまでは主に外来通院の話をしてきましたが、入院中も日記をつけることをお勧めします。なぜなら暇つぶしに最適だからです。

もちろん読書やテレビも良いのですが、個人的には日記のほうが飽きませんでした。入院中は、慣れないことが次々と起こり、いつのまにか情報のインプットが飽和状態になります。本やテレビからの情報は優先度が低いので、なかなか頭に入ってきません。逆に、文章を書くというアウトプットの作業は心地良く感じます。

5. 読み返すと自分でも驚くほど学びが深まる

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病気そのものは、ないに越したことはありません。しかし「病気になってしまった以上、何らかの意味を見出したい。経験から学びたい」と望む患者さんは多いのではないかと思います。病気に意味はなくても、患者さんが意味を創り出すことは可能なのです。

『7つの習慣』で有名なコヴィー氏の言葉を引用しましょう。

人生を揺るがす危機に直面し、物事の優先順位が突如として変わるとき、(中略)多くの人は考え方が根本から変化するパラダイムシフトを体験している。

態度や行動を改善すべく、何週間、何か月、何年も(中略)努力を積んできたところで、物事が一瞬にして違って見えるパラダイムシフトの大きな変化には比べようもないだろう。

病気は、まさに「人生を揺るがす危機」といえます。刻一刻と変化する心情を日記に残しておけば、読み返したときに驚くほど学びが深まるはずです。

患者の日記は社会の財産になる

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病気の体験を本やブログなどで発信したとき、日記は「自分だけの空間」から「社会の財産」へと変貌します。もちろん日記をそのまま公開するのではなく、個人情報を削ったり、わかりやすいように書き換えたりという作業は必要ですが、本質は変わらないと思います。

インターネットが普及した現在、多くの患者さんやご家族が「体験談」を検索しています。重い病気なら、書籍化された闘病記を読むこともあるでしょう。

体験談は、あくまでも個人の体験であり、時に不安や混乱を助長するという弊害もあります。しかし、患者さんの孤独を和らげる効果はあると思います。「この病気で悩んでいるのは自分だけではない」という事実を知るだけで、ふっと心が軽くなるものです。

さらに、患者さんの体験談は医療者にも有益です。なぜなら患者さんが医療者に話すのは、考えや気持ちの一部でしかないからです。それも、ごくごく一部です。

私は看護学生なので、参考として体験談を検索することがあります。患者さんは、口には出さなくても看護師に感謝したり、逆に不満をつのらせたりすることが多いようです。「面と向かって言えなかった不満」のエピソードは、特に勉強になります。

患者さんの等身大の思いが表れた日記は、「社会の財産」になりうる原石のようなものです。「発信するつもりはない」と思っていても、もしかして途中で気が変わるかもしれないので、日記をつけておくことをお勧めします。

<引用文献>
・スティーヴン・R・コヴィー:完訳 7つの習慣―人格主義の回復―. キングベアー出版, 2013. 26頁

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