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薬学出身者のキャリア形成と人材育成

公開日: : 最終更新日:2014/12/29

薬学生が就職活動の企業分析をする上で考えるのは、自身のキャリアをどう形成していくか?そして、それに答えられる人材育成を行っている企業はどこなのか?そのような疑問なのではないかと思います。

実際にキャリアを歩まれている医療従事者に聞くのも良いと思いますが、今回は企業の中で人材育成を行った経験お聞きしたく、外資系のトータルヘルスケアメーカーの医薬品部門にて採用部門のマネージャーとして9年間従事された経験のある桐田博史さんに、薬学出身者をキャリアについて語っていただきました。

研修制度の質問は「会社に育ててもらう」という印象も

新卒採用をされていると、学生からはどのような質問が多いのでしょうか?

企業で新卒採用を担当していると、学生さんから人事異動や研修制度についての質問をよく受けます。

例えば製薬メーカーの場合、MRや臨床開発などの限られた職種でしか新卒学生を募集していないため、入社後、自分がどのような道をたどっていくことになるのか不安が大きいということでしょう。自身のスキルアップやキャリアイメージについて関心を寄せる姿に感心する一方で、質問の内容によっては、「会社に育ててもらう」という受動的な印象を受けることもあります。

人材育成のイニシアチブは誰がとるべきか

人材育成に対する企業の実施状況の現状はどうなのでしょうか?

厚生労働省が民間企業を対象に実施した能力開発基本調査によると、「能力開発の責任主体は会社である」と捉えている企業が全体の75.0%という結果になっており、会社が社員を育成することへの意欲は極めて高いと言えます。しかしその内情を掘り下げていくと、その意欲とは裏腹な実態が垣間見えてきます。

例えば、「計画的なOJTを実施しているか」という質問に対して「Yes」と回答している企業は59.4%と低く、「会社として能力開発計画書を作成しているか」という問いにいたっては、「Yes」がわずか21.6%となっています。

また、Off-JTについては、その実施率は69.9%と比較的高い状況ではあるものの、最も多く実施された研修は新規入社者向けの研修というのが実情で、中堅社員向け研修の実施率は43.9%、新任管理職研修は41.1%と低調と言わざるを得ない結果となっています。

こうしたデータから、人材育成を計画的に行うことの難しさをあらためて考えさせられますが、同調査によると、会社が考える人材育成の課題トップ3は、「指導する人材が不足している」「育成に充てる時間がない」「研修を行ってもすぐに辞めてしまう社員が多い」となっています。

企業側にも問題は存在するという事なんですね。

人事がそれを言ってはおしまいという気もしますが、冷静に考えてみると、ビジネス環境や個人の就労意識の変化に会社の人材育成の考え方が対応しきれていないことが遠因であるように思えます。

日本の経済が右肩上がりの状態を保ち、且つ、ビジネス競争もそれほど激しくないという前提のもとでは、終身雇用や年功序列の給与体系と併せて、全社一律の人材育成体系も有効に機能してきました。しかし、昔に比べてビジネスサイクルが早くなり、労働環境も大きく変化してきた今の時代に、果たして今まで通り「会社が責任主体となって会社の人材育成体系を決める」という考え方がふさわしいのかということについては、今一度考え直す必要があるように思えてなりません。

キャリア開発は自己実現の過程

キャリアディベロップメントという言葉を良く聞きますが、多くの職務経験を積む事が自身のキャリア形成になるのでしょうか?

キャリアディベロップメントという言葉を聞くと、さまざまな仕事を経験することや出世していくことを想像しがちですが、実はそれらは一つのプロセスにしか過ぎません。

例えば、MRとして入社した新入社員が開業医担当から大学病院担当になり、その後、課長職となって部下の指導や育成を経験し、マーケティング部門に異動するというケースがあります。

また、モニターからチームリーダーを経てプロジェクトリーダーとなり、最後は開発の戦略責任者になる人もいます。

もちろん言うまでもなく、これらは立派なキャリアアップの成功例ですが、実は成功者の多くは、「どのポジションに就くか」ということよりも、「そこでどんな経験をし、どのように働くか」ということを大切にしています。

例えばあるMRが、日々ドクターと個別症例についてディスカッションする中で学んだ成功体験をより多くの患者さんにより早く還元したいという熱い思いを抱いてマーケティング部門へ異動し、キーオピニオンリーダーと地域の開業医が定期的に最新情報をやりとりする仕組みを作り上げたというのも、その最たる事例だと言えます。

医療関係者としての自己実現を柔軟に模索していくことが「キャリア開発」

ポジションではなく、自分自身がどんな経験をしてどのように働きたいか?が重要なんですね。

ビジネス環境の変化が激しい昨今、会社の組織もポジションも目まぐるしく変わり、毎年新しい部署やポジション、職種が生まれています。新しいビジネスニーズの誕生や、患者を含む顧客を取り巻く状況の変化に対して会社は柔軟 且つ 素早く対応していくことが求められるからです。

このような状況の中では、特定のポジションにこだわったキャリアプランを描くより、どんな役割でもこなせるような幅の広い経験を数多く積むことの方が大切になってきます。何事にも好奇心を持って毎日の仕事に真摯に取り組み、医療を取り巻く環境変化を敏感に察知たり、そこから何かしらのインサイトを積極的に得ようとする姿勢が自らの引き出しを増やし、隠れた医療ニーズを掘り起こすことや困難な医療上の課題を解決していくことに繋がります。

そしてその成長が、結果として自分自身にふさわしいポジションに導いてくれるのです。言い換えると、医療関係者としての自己実現を柔軟に模索していくこと自体がキャリア開発になるということなのです。これは、製薬会社に勤務する場合でも、薬局やドラッグストア、病院で勤務する場合でも同じです。

キャリア開発において、薬学生特有の利点や欠点はあるのでしょうか?

薬学をバックグラウンドとする方はその専門性の深さゆえ、「自分は専門領域MRとして活躍したい」「薬剤師は服薬指導の適格性がすべて」「多くの患者さんに対峙するより、面の前の一人の患者さんにフォーカスしたい」といった自身の理想のスタイルを具体的に描きやすいという利点があります。

しかしその反面、そのこだわりの強さが「医療に貢献するという大きな傘の下にいる」ということを忘れさせてしまうこともあります。「自分が何をしたいのか」ということと、「いま、自分に何ができるのか」のバランスをうまくとることが求めらることを意識してほしいと思います。

新たな時代の人材育成

これからの時代で求められてくる人材育成とはどのようなものでしょうか?

全ての社員が同じ方向をめざし同じような能力を保有することが是とされた時代、会社に求められる人材育成の責任は、全社一律の研修体系を構築することでした。

しかし、ビジネス環境の変化のスピードが著しく早くなり競争も激しい今日、悠長に人材育成論を語っている余裕はありません。長期的な人材育成のゴールイメージを持ちながらも、多彩な即戦力人材を早急に育成していく必要があります。

このような環境下、会社に求められる責任は、総合的なビジネススキルを向上させるための適切な機会、つまりは新しい仕事を個々の社員に適切なタイミングで提供し、必要なサポートを行っていくことになります。

厳しい実践の場で適切な経験を積むことで、ビジネスに求められる柔軟な姿勢や適応力、高い総合力を身につけるという考え方ですが、これを効果的に実践していくためには、会社は常に社員のキャリアや特性、持ち味を把握し、それらを伸ばすことができる最適なビジネスオポチュニティを創出し、うまくマッチングできるように組織編成を柔軟に行っていく必要があります。

決して容易なことではありませんが、こうした「成長のための実践の場を提供すること」がこれからの能力開発の基本の考え方になってくると考えます。そして、このような理念を実践に移していくためには、人材開発部門が育成プログラムをコントロールするのではなく、各部門のビジネスリーダーと情報をシェアしながら、常にビジネスと人材育成の両輪を回していくというスタンスが必要になってきます。

個人が人材育成の主体者である

こうした考えに立つと、個々の社員は、会社から提供される新たな機会に適応して能力を発揮するために常に自己を研鑽しておく必要があるわけですが、その責任主体は自ずと自分自身ということになってきます。

先述の厚生労働省の調査の中に、「職業生活設計の考え方」という労働者側の意識を聞いた質問がありますが、それによると、「個々人が人材育成の主体者であるべき」という意見が65.5%で、「会社が主体であるべき」の15.8%を大きく上回っていました。

この結果は、キャリア開発や人材育成について、人事よりも一人ひとりの労働者の方が的確に時代をよく理解していることを表しているように思えてなりませんが、社員・ビジネスリーダー・社員の三者で人材育成やキャリアを考えていく時代が来ていることは間違いないと思われます。

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