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病んでいる世の中に仕える―病院チャプレン ケビン・シーバーさん

公開日: : 最終更新日:2014/11/04

隅田川の畔にたたずむ聖路加国際病院で病院チャプレンをしていらっしゃる、ケビン・シーバーさんにお話をお伺いしてきました!

けびん

ケビンさんは、1967年アメリカ・テキサス州で生まれ。クリスチャンファミリーに生まれましたが、高校の頃から無宗教の人だったそうです。

大学(テネシー州サウス大学)卒業後1991年に来日し、独学で日本語勉強に力を注ぎながらサラリーマンを勤め、大いに楽しむ日々を送り、ウォール街の会社の東京支部で編集部長まで出世されました。

しかし、突如神に邪魔され、すっかり方向転換し、牧師への道に踏み出されます。

2001年アメリカのバージニア神学校に入学し、総合病院で臨床スピリチュアルケア研修を受け、2004年に修士号を取得。卒業後再び来日、聖公会神学院を経て、東京都内の教会と女子校で働かれ、2007年より聖路加国際病院・聖路加看護大学チャプレンに。現在に至ります。

看護大学ではキリスト教概論、キリスト教倫理を担当しておられ、妻と3人の子供と暮らしていらっしゃいます。

 

日本に住まれて長いケビンさんは、日本語もとっても堪能です!

病院チャプレンという仕事は、病院という医療者ばかりがいる環境の中で、唯一医療者ではない立場として患者さんと関わることができる珍しい職業です。日本はまして無宗教大国なので、聞いたこともない人もいらっしゃるかもしれませんが、病院ではとても重要な役割を果たされています!

医療職ではないけれど、医療者に近い存在であるチャプレンという心のケアの専門家から聞かれる、医療者や患者に対する言葉は一体どんな言葉なのでしょうか?

I,私がチャプレンという職業を選んだ理由

生きる上での苦しみに直面している人の心のケア、サポートをするのが、チャプレンの仕事です。

けびん1

組原:まず、チャプレンのお仕事というのは具体的にどのようなことをなさっているのでしょうか。

ケビン先生:簡単に言うと、スピリチュアルケアの専門家です。スピリチュアルケアとは、‘人間のスピリチュアリティを支えるもの’で、人によって違います。人間の生きる意味は何なのかというのがスピリチュアルで、いろんなものが関わってきます。家族関係や死生観、もちろん特定の宗教があればそれも。病気による苦しみや、生きる上での苦しみに直面している人の心のケア、サポートをするのが、チャプレンの仕事の内容です。

組原:普段は病棟の方に行かれるのでしょうか?

ケビン先生:そうですね。主にここ(聖路加国際病院)では、緩和ケア病棟に行きます。呼び出しや介入の依頼があれば病院のどこにでも行くのですが、チャプレンが常に関わっている科は、緩和ケア科、腫瘍内科、小児科、救命救急部で、主にその4つのチームの中に一員として入れさせていただいています。

組原:そちらにいらっしゃって、患者さんとお話をなさったりするのですか?

ケビン先生:そうです。スピリチュアルサポートをするというのは、手段として主に傾聴が多いのです。じっくり話を聴く、そしていろんなテクニックを使って、表面的な話よりも、心の悩みとか、生きる意味に対する叫びとか、抱えている苦しみを明らかにする。話を聴きながらそういうものを引き出そうとしています。

 生きる希望を探すため、サラリーマンから病院チャプレンに転職。

組原:ケビン先生は、どうしてチャプレンになろうと思われたのでしょうか。

ケビン先生:私は日本に24年前に来ましたが、当時は、まったく教会やキリスト教とは関係ないサラリーマンでした。サラリーマンとして生活しているうちに、その当時はこんな言葉では考えていなかったのですが、自分自身のスピリチュアルペインを強く感じるようになって、生きていくのに何の希望も見出せませんでした。仕事をお金を稼ぐため、生活を立てるためにしか思っていなくて、自分はこの人生何をしているんだろう?何のために生きているんだろう?と感じるようになりました。

そこから、とにかく前に進むために答えとなる道を探していたら、たまたまある教会で尊敬できるような若者たちと出会いました。たまたま彼らはクリスチャンでした。彼らが持っているものには何か魅力に感じるものがあって、もっと知りたいなと思い、それをきっかけに教会に通い始めました。数年間いろいろな疑問を持ちながら通いましたが、自分でもクリスチャンでいいんだ、自分もクリスチャンなんだ、それでいいんだと思うようになりました。他の人との話の中で、聖職者の道も良いな、と考えるようになったんですね。

私は、どこで働くとしてもスピリチュアルケアが必要だなと思ったので、アメリカで3年間マスターコースに行って、アメリカの病院でチャプレン実習をしました。そういう訓練を受けたことも医療に携わるきっかけとなりました。

組原:では、牧師さんの道を決められて、教会などいろいろある中で、その中でも病院と決められたのは…

ケビン先生:病院チャプレンになりたいとは最初からは思っていなくて、そういう訓練を受けているうちにすごくいいなと魅力を感じました。でも結局は、聖公会では自分で(行き先を)決めるのではないんですね。監督である主教さんが派遣するのです。たまたま、とは今では思っていませんが、たまたま私は、病院に行ってちょうだいと言われたので、ここにいます。

日本にいるのは、聖路加国際病院という、国際性のある病院であるというのもあるし、私が病院に行っていたというのも知っていて、この配属になったのだと思います。主教さんの下で所属しなくてはならないので、最初は彼にアメリカに残れるよう話していたのですが、彼の一言は、「あなたは日本で救われたから、日本で神に仕えなさい」という言葉でした。落ち込んだ時期もありましたが、それが神の声だと思い、その後は喜びをもって日本で働きたいと思えるようになりました。

 

Ⅱ、患者さんに寄り添うことについて 

共感すること。それは、想像力をはたらかせて、相手のストーリーをそのまま受け入れること。

赤川:ケビン先生の中で患者さんに寄り添うというのはどんなことですか?

ケビン先生:まず、完全に寄り添うことはできないと思います。たとえば同じ末期がんの人同士でもやっぱり受け止め方は違います。100%は寄り添えない、というのが現実です。

でも、寄り添う努力はしています。まずは、共感を持とうとする必要がある。そもそも人間はどんな人でも悲しみや自分の辛い経験があるので、苦痛は0ではないんですね。自分の経験や自分の想像力を出しながら、自分がこの人の立場だったらどうだろうか?どう感じるんだろうか?どういうことを心配するんだろうか?といったことをいろいろ考えながら話を聴きます。

共感のポイントとして、まず全身全霊で話を聴くことがつながると思っています。そして、話を聴くときに、相手の世界をそのまま受け入れるのです。医療者はいろんな病気に対する知識があり、見込みがわかっているからこそ、とても難しいと思いますが、患者さんの恐怖に対する理解がまさに大切です。たとえば小さな皮膚がんだったら、これを手術すれば治るだろう、ということは医師や看護師はわかっていますが、患者さんにとってはこの上ない恐怖なのです。そういうときは、知識とか、自分の客観的な立場から離れて、相手の語っているストーリーをそのまま受け入れる。

でも、話の内容をそのまま受け入れても、この話は妥当かどうかなど、すぐには判断しません。これは難しいところもありますが。たまにはチャプレン室に来る患者さんで、家族に対する文句を言う方がいらっしゃいます。チャプレンとして寄り添いたいから話を聴いているのですが、頭の中では「でもそれはあなたが悪いんじゃない?」と思うこともあります。そんな気持ちを追い払えない時、彼女に対しては私は寄り添えていない、と反省するのですが、話をじっくりと聴いて、その語っているストーリーをこちらがきれいにまとめてあげたり、聴いた内容を要約しておうむ返しをしたりします。その中で患者さんが訴えている悩み、希望、不安や恐怖など、いろいろなものを聞いて、そのストーリーの中に自分が引き込まれていくのです。

 

共感したうえで、タッチを通してさらに相手の存在を認めること。

けびん2

ケビン先生:あとは、身体的にそばにいることが大事です。手を握ったり、祈ったり、それは無言でもできる。確かにあなたはここにいる、ということを手を握って認めると同時に、私はここにいるよ、一人ぼっちじゃないよ、ということを無言で伝えるのです。

日本社会ではあまり人に触れないんですよね。アメリカでは握手とかハグとかするんですけれども…。私は、郷に入りては郷に従え、という考えなので、日本に来て10年間サラリーマンとして過ごして、あまり人に触れないようになりました。だからアメリカに帰ると友人に冷たい人間だと言われてしまうのですが(笑)。しかし病院では、できるだけ患者さんの手を握ったり、肩の上に手を置いたりして、タッチを大事にしています。これらが、“寄り添う”という姿勢だと思っています。

赤川:患者さんの中には、全てを話の中で出したいと思っている方もいれば、自分の中に秘めておきたいという方、なかなか全ては話せない方など、いろいろな方がいらっしゃるかもしれませんが、今お話をお聞きして、会話から全てを引き出すのではなく、一緒にいることでケアができるのだなと感じました。

ケビン先生:そうですね。一緒にいることが、ケアの一つですね。

 

Ⅱ、医療者を含め、みんなに伝えたいこと

 医療者には、白衣を着ている医療者という認識から抜け出す勇気を持ってほしい。

赤川:こういったことは、“医療者”という立場になってしまうと、難しいのでしょうか?

ケビン先生:そうですね。医療者は、ある意味で“サービス提供”をしています。病気や治療についての知識があって、それを患者さんに教え、治療やケアを提供する、というサービス提供です。それを置いておいて人間同士としての触れ合いはできなくはないと思いますが、それを一時的にでも捨てて人間同士の触れ合いとして寄り添うことを避ける人もいます。あくまでも、「白衣を着ている医療者だ」という認識から抜け出す勇気が必要だと思います。

赤川:逆に、医療者が、“一人の人”として患者さんと接したいと思ったときに、患者さんからは“この人はこういう職の人だから”話せる、あるいは話したくない、と思われるような場合はあるのでしょうか?

ケビン先生:そのような患者さんもいらっしゃるかもしれませんが、「大変ですね」とか、共感を表すようなことばが一言でもあれば患者さんはすごくありがたいと思います。「あなたは医療者としてしっかりやりなさい」と思う部分もあるかもしれませんが、常に職業の立場としていてほしい、という方はそんなに多くないと思います。そこには“人間がいる”のです。

クリスチャンのことばに“悲しんでいる人と共に悲しみ 喜んでいる人と共に喜びなさい”ということばがありますが、そのようなことができる医療者は非常にありがたい存在です。単純に、悲しいときはたまには泣くんですね。緩和ケアの先生など、プロではありますが、泣くときは泣く。逆に、小さなことで一緒に喜ぶというのも大事だと思う。だから、医療者としても、できるだけ病棟に行って、患者さんにエールを送ったり、優しい一言をまいたりして…そういう存在がいたら素晴らしいと思います。

赤川:チャプレンとして患者さんと関わることに対して、最初の頃はどのようなお気持ちでしたか…?

ケビン先生:最初は怖かったですね。今でも患者さんとの初対面ではこちらも緊張します。まずチャプレンとは何かということをちゃんと分かっている日本の方は少ないので、この人にはわたしのことは受け入れてもらえないのかなと思うこともあります。変な格好(カラー)をしている人が部屋に来る、と思われることもある気がします。

だからその前に、さりげなく接点をつくろうとしています。一緒にお茶を飲んだり、お祈りをしたり、音楽を聴いたり、たわいない話をしたり。

また、最初は、辛い思いを抱える患者さんから逃げたいという気持ちが強かったと思います。私は小児科担当なのですが、子供自身だけでなく、子どもを亡くしたご両親や、子どもとの時間がもうあまり残されていないご両親には一番近寄りがたいのです。自分自身もその子と遊んできたし、辛く、悲しい。でも、自分の子どもを亡くすほどの辛さは自分にはないのだろうなと思って、逃げたくなるのです。でも、そんなときは祈って近寄る。自分がいなければ代わりに近くにいられる人はいないのだから、という責任感があります。

チャプレンを辞めたいとは思わず、7,8年間続けています。「あぁ、話せてよかった」とか、自分が患者さんのもとに行って少しでも「楽になった」と言ってくれることがあるから、プロとして自分の緊張を抑えて、患者さんやその家族のケアの場面をつくっています。

 

苦しんでいる人々に、あなたは一人ぼっちじゃないということを伝えたい。

けびん3

赤川:タイトルにもあるように、ケビン先生は医療系学生にむけて“病んでいる世の中に仕える”という一言をくださいました。

最後に“病んでいる世の中に仕える”とは何か、教えてください。

ケビン先生:世の中には、喜びをもって生きることができる人は大勢いるのでしょうか。多くの人々は、普段の社会ではそれを無視して仕事をしています。ひたすら仕事をして、ひまならスマホをいじって。そんな“静かになりたがらない”社会に生きる人々の苦しみを救いたい。神もこのような人々の苦しみを見ていることは苦しいのです。

実際には、“死にたい”と思う人と向き合うとき、無力感を感じることもある。

マジックのように言葉を言って、人はすぐに元気になるわけではないからです。

でも、伝えたいのです。あなたは一人ぼっちじゃないということを。

素敵なお話をありがとうございました。

 

編集後記

今回のインタビュー通して見えてきたもの。それは、確かに医療は人々の命を救うことができるものだけれど、人の心を救うための1つの手段でしかないということでした。

病院には苦しんでいる人がたくさんいます。そして、医療だけではなく、世の中には苦しんでいる人がたくさんいます。

様々な人達と正面から向かい合うチャプレンという仕事をこなすケビンさんからは、人間として本当に大切なことについて教えていただきました。

医療学生や医療職になって長くなればなるほど、だんだん患者としての新鮮な気持ちを忘れてしまいがちですが、どんな医療職であっても、どんなに医療という世界に染まっても、どんな病棟に勤めようとも人として患者さんに向き合うことは忘れないでいてほしい。

わたしたちは皆共に生きていると、患者さんも医療者も感じられる、そんな医療現場が増えたらいいなと思います。

文責:北里大学薬学部3年 赤川真理
   聖路加国際大学4年 組原真祐子

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