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安易に熱を冷ますべからず

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発熱時「とりあえず冷やす」はやめましょう

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秋涼の候となりました。気温が下がり、風邪を引いてしまったという人も多く見受けられます。

「風邪を引いて、熱が出て苦しい時はとりあえず冷やす。」

日本ではこれが習慣化しているように感じます。

熱を下げるために冷やすことは当然だと考える人も多い事でしょう。 しかし、冷やすことが解熱するということは実は証明されていません。

 

「核心温度」と「外殻温度」

体温は「核心温度」と「外殻温度」に分けられます。

核心部と外層部

<核心部と外層部>

 

図のように、「核心温度」は頭腔、腹腔、胸腔など核心部の温度のことであり、視床下部にある体温調節中枢により一定に保たれています。一方、「外殻温度」は体表面(皮膚)や末梢など外層部の温度であり、熱の産生量が少ないため外の環境に影響されやすく変動しています。

ご存知のとおり、通常、体温は直腸・口腔・脇の下などで測定します。これらの部位は体表面上ですが、核心温度をできるだけ反映させられる温度を測定できるからです。

しかし、その数値は環境によって温度が変化してしまうので、核心温度と同じであるとは限りません。

核心温度が下がらなければ、解熱したことにはならないのです。

 

冷やすことは、核心温度を下げるのか?

そのことに興味を持った看護師が、肺動脈サーミスタが挿入されクーリングが行われた患者さんの温度変化について事例検討し、脇の下の温度と核心温度の変化の特徴について研究を行いました。

サーミスタとは、温度を測定するセンサとしても利用されている、温度変化に対して電気抵抗の変化の大きい抵抗体のことです。センサとしては-50度から1000度まで測定ができます。

実は、ICU(救急治療室)では、挿入されている各種カテーテルからも体温測定を行っています。肺動脈カテーテルによる測定では、肺動脈サーミスタが核心温度を反映していると言われています。

以下の図は、肺動脈の位置を示しています。

<心臓の図 (小児看護師日記HPより)>

 

研究は、過去の医療記録から対象となる患者10例(平均年齢61±16.9歳:29~88歳)を抽出し、後ろ向き調査法を用いて行いました。

対象となる事例は、ある救命救急センターで過去一年間にICU・CCUへ入室し、肺動脈カテーテルが挿入されてクーリング(冷やすこと)が施行された者とし、本研究への参加同意を得られた方々です。

その結果、10例が抽出されました。発熱時にクーリングを行ったのが5事例、クーリングと座薬を使用したのが2事例、筋弛緩薬(筋肉の動きを弱める医薬品)投与下におけるクーリングのためのブランケットを使用したのが3事例でした。

事例検討から肺動脈サーミスタによる体温(以下、PA温)が一定の傾向を示すのに対して 脇の下の温度の変動が激しい事例、クーリングを中止した時点から脇の下の温度の上昇が急激なのに対して PA温の上昇は緩和である事例、脇の下の温度とPA温が平衡状態を示さない場合は 体温の指標をどの体温に設定すべきなのか 判断に迷ったという事例 などがみられました。

また、クーリングを行った時の体温変化を22場面において検討した結果、クーリングを行った時点の体温を「施行前」とし、その後クーリングを行っている途中に脇の下の温度が最も下降した時点を「施行後」とすると、脇の下の温度がクーリングにより有意に下がり、PA温は温度変化がなく有意差も得られませんでした。

 

このように、クーリングを行って脇の下で測った体温が下がったとしても、体の中心部の体温は下がらないのです。

この研究によって、脇の下の温度だと変動が激しく、クーリング・発汗・環境の変化(ベッド位置、送風環境など)の影響を受けやすいことが明らかにされたため、今後 解熱剤やクーリングの適応に関する指標となる体温をどの測定器具による温度を判断基準とするか が今後の重要な課題になることが示唆されました。

また今回の結果から、体を冷やすときに 熱を下げるために冷やすのか、ただ安楽のために冷やすのか、考えてクーリングを行わなくてはいけない と考えられます。

なぜなら、冷やすことによって体表から熱が奪われると、体温調節中枢の設定温度は変わらないのに身体が熱を生産しようとしてしまうことで、余計な体力を消耗させてしまうのだと考えられるからです。

冷やす前に発熱のメカニズムを見極めよう!

冷やすことで解熱したいと考えるのであれば、冷やす前にそれが高体温症、発熱、もしくは中枢性高体温症のどれなのかを見極める必要があります。それぞれのメカニズムについてご説明します。

 

  • 体温調節中枢が正常に機能している場合

この場合、高体温症発熱 の2種類の発熱のタイプが存在します。

高体温症は熱産生と熱放散のバランスに起因しています。高温多湿な環境下での活動や衣服の着すぎが原因でなる 熱中症などの環境に起因するものや、ストレスや薬剤によるものが例として挙げられます。

一方、発熱は免疫反応による脳にある体温調節中枢のセットポイント(脳が認識している体のベストな状態)の変化によって、体温が上昇するものです。セットポイントの上昇は、細菌感染や手術創、腫瘍などの異物に対する防御反応が原因と言われています。

クーリングが必要なのは、高体温症です。高体温症の場合、たまり過ぎた熱をとれば、体温中枢の設定温度は正常なので平熱に戻るからです。ちなみに、どの部位を冷やすことで効率よく熱をとるのかは今後の研究課題だそうですが、血流の速さはものすごく速いので 冷やす際に動脈が表在している場所を特に選ぶ必要はないと言われています。

一方で、発熱に対してクーリングすることは余計です。この場合、体表から熱を奪っても設定温度は変わらないからです。しかも、先に述べたように体表を冷やすことは余計な熱産生を促し、体力を消耗させることになります。

ここでは、自然な解熱を待つという姿勢を取ることが大切です。また、解熱剤の使用に関しても、防御反応が収まる前に解熱剤を用いても解決にはならない、ということを知った上で、使用の仕方を考えるべきでしょう。

 

  • 体温調整中枢が機能していない場合

この場合、中枢性高体温症と言う大変危険な状態があります。身体を何度に保てばよいか分からず調節をしなくなる状態です。

熱を調節出来なくなれば、熱はたまる一方です。なので、中枢性高体温症の場合もクーリングが必要になってきます。

 

このように、高体温症、発熱、中枢性高体温症の3種類の高体温で異なるメカニズムが存在し、それぞれに合った対応をすることが大切だということをお分かり頂けましたか?

この知識をもって看護師が現場で見極めることができることが、看護ケアの第一歩ではありますが、この知識は看護師以外の人でも知っておいて損はありません。

ぜひ、この視点を持って誰かの発熱時に冷やすかどうか一度よく考えてみてください。余計な体力を消耗しないために。

 

文責:聖路加国際大学看護学部4年 松井晴菜

引用・参考文献:

・菱沼典子・川島みどり編集(2013) , 看護技術の科学と検証第2版―研究から実践へ、実践から研究へ―,株式会社 日本看護協会出版, p113-p119

・増田由美・尾山玲子・櫻井利江 他(2003), 肺動脈カテーテル挿入中患者における体温の変化とクーリング,第2回日本看護技術学会収録集p51

・Wikipedia サーミスタ

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