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Cycling Africa 〜DAY 2〜

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ナミビアから南アフリカ共和国までの14日間1600kmの自転車旅の軌跡 Cycling Africa 〜prologue〜

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早朝「守衛交代の時間だ」とおじいちゃんに起こされた。ここは何処だ、と寝惚けた頭で一瞬考えるが、すぐに自転車旅が始まったことを思い出した。

水の調達をしたかったので店を探そうとすると、おじいちゃんが「うちに来い、珈琲を飲もう」と言う。開店まで暫く時間があるようだったので、お言葉にまた甘えることにした。

 

 

おじいちゃんの家は、だだっ広い空き地のような、柵もない敷地の隅に建っていた。「家」というよりは「小屋」といったほうが適切だろう。電気、水道はなく、奥さんが寝ているシングルベッド、それと廃品のようなソファーが1つ無造作に並べられた、シンプルすぎる自宅だった。

 

彼は南アフリカ出身だが、ナミビアに移り住んでもう数十年になると言う。暮らし向きは明らかに良くはなく、夜間の警備の仕事も物価の高いこの国では雀の涙ほどにしかならないそうだ。

 

「どうだビックリしただろう?おれは貧しいんだ、ワッハッハッハ!」

 

そう豪快に笑いながら、乱雑にちぎった新聞紙の切れ端で安煙草を巻いて吸っていた。おじいちゃんが淹れてくれた珈琲は、滲み出る安っぽさを大量の砂糖で誤摩化したような味がしたが、何故だろうか、すごく美味しかった。

 

「…美味しい」、そう素直に告げると、おじいちゃんはまた豪快に笑った。

 

 

町の規模に不釣り合いな程大きいスーパーの開店を待つ間、店の前で朝食をとった。疲れているからに違いないが、サバ缶のような魚缶詰がとてつもなく美味い。汁まで全部すすってしまった。ミハラもどこか満足そうな笑顔で食パンを齧っていた。なんとなく不気味な光景である。

 

水を補充し、ドラマな夜を過ごしたRehobothを後にした。キャリアーの調子も良好。「さあ今日も漕ぐぞ!」そんな風に意気込みペダルを漕ぎ始めた30分後、待ってました!とばかりに早速トラブルが発生した。今度はタイヤの空気が足りないようで、0.5秒おきに自転車がガコッガコッと振動する。仕方なく空気入れを取り出し直し修理を試みるも、何故か空気が入らない。パンクの可能性を疑うが、パンク修理は自分じゃできない。ミハラはこうしてる間に随分先に行ってしまっている。

 

どうするどうする・・・と迷った挙げ句、ヒッチハイクをすることにした。自分にできる最大限に不幸な顔を満面に、路傍の自転車脇にこれまた不憫そうに座り込む。我ながらなかなかに間抜けな絵であるが、幸運にもすぐに車が停まってくれた。

 

礼を述べようと運転席を覗くと、ドライバーは偶然にも昨晩一緒に馬鹿騒ぎしていた若者の1人だった。

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ミハラに追い着き、自転車の修理の後、南へとただひたすらに真っすぐ続く炎天下の一本道を1人走り続けた。

 

昼も近くなった頃、休憩をしようと日陰を探したが、如何せん木陰が見つからない。辺りはどこに目をやっても大小様々な石々と乾燥に強そうな植物が味気なく広がる不毛の大地で、景色の変化の無さにふと自分が何処にいるのか分からなってくる。360°の贅沢な大空にも徐々に嫌気がさしてきた頃、小高い坂道脇の小さな木陰に銀マットを広げて昼寝をしているミハラを見つけた。声をかけるも反応はない。僕も隣に横たわって、30分ほど目を閉じた。

 

後で分かったことだが、この時ミハラは軽い熱中症気味で朦朧としていたそうだ。

 

 

昨日は「風」という大自然の猛威に圧倒された1日だったが、2日目は「暑さ」にとことんやる気を削がれた。正確な気温は分からないが、40℃は超えていた。肌を焼くような日差しなので、体感的にはもっと暑く感じる。

 

喉を潤そうと水を飲めども、ほとんどお湯のようなそれでは渇きが癒せない。結果、量を飲んでしまうため水の減りが頗る早い。丁度一番気温が高い時間帯に木陰が全く見当たらなかったのも、更なる疲労への一端を担った。

 

ナミビアではどうやら夕時になると雲と風が出始めるようで、4時を回った頃から空に黒ずんだ雨雲が何処からとも無くひょっこり現れた。雨対策が皆無だったため、できるだけ雲との距離をあけて走るようにしていたが、途中雲に完全に捕まってしまった。

 

僕の真上だけに小さな雲があって、僕の周りだけがしとしと濡れてゆく。幸い土砂降りにならずにすんだ上に、火照り乾いた体に染み入る雨粒が実に心地良い。小粋なサービスのつもりなのだろうか、その名前をつけたくなる程に愛嬌ある雨雲は僕と同じスピードで南へと流れていた。

 

次の町まで約30kmほどの木々が多くなり始めた場所で野宿することに決めた。19:30には日が沈むので、無理をして町の手前で野宿することになるよりは安全だろう、という判断だ。

 

ミハラを待つ間、水を求めて国道を100kmで走る車に手を降った。30分ほど粘ったところ、2台が停まってくれて、うち1台は1.5Lのカチコチに凍ったペットボトルをくれた。水がない状況での氷ペットボトルは、叫びだしたくなる位心底嬉しいもので、サハラ砂漠で名も知らぬおじさんからも氷ペットボトルをもらったことを、ふと思い出した。

 

「人に優しくされたとき、自分の小ささを知りました」、Mongol800の「あなたに」が脳内自動再生され始め、すこし涙が出た。

 

 

ミハラが到着したのは18:00を過ぎた頃で、トラックの荷台に自転車を乗せ「ウィーっす」などと笑いながら手を振っていた。話を聞くと、3回連続でパンクしてイライラしていたところを乗せてくれたそうだ。

 

この国道沿いには時折マキビシのような植物の種が落ちており、コイツが見た目の小ささや枯れ加減からは想像できない程にカタくてトンがっているのだ。気づかずにタイヤで踏みつけると一瞬でパンクする、という何ともチャリダー泣かせなこの憎き植物に、僕らは「俗称【ナミビアトゲトゲ】学名【ナミビアンデビル】」と命名した。

 

 

この日は心底疲弊し切っていた。風だけならまだ良いものの、この暑さ、である。予想外も甚だしい。その上、町と町の間にガソリンスタンドやら地図にないような小さな村くらいあるだろう、という楽観すらも全否定された。文字通り、無補給地帯なのだ。

 

1日100kmなんて不可能じゃないのか、そもそも我々は生きてケープタウンに辿り着けるのか。そんな先行きの見えない不安に対し、焦燥感と絶望をブレンドしたどす黒い感情に駆られていた。

 

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だから、神様の小粋な計らいなのであろう。この日の夕焼けは言葉を失うほど美しかった。遠く西の荒野に沈む赤い球が、薄く棚引く雨雲のカーテンを不思議な色に染め上げ、世界を神秘のベールで包んでいた。美しい心打たれる夕景は旅中に、これまでの人生に、何度も目にしてきた。だが、この日のそれは一線を画す何かを内包している、そんな切実さがあった。

 

道路に寝転がり、ふと今晩の寝床である頼り無さげな木に目をやると、その上の空にうっすら虹がかかっていた。綺麗な虹、たったそれだけのことで「明日も頑張ってみるか」なんて思えてしまうから、自分は随分安上がりな人間だなあと笑ってしまう。

 

「大自然、飽きた」「看板が見えるだけで嬉しい」「ビルが見たい」そんな文句を口々にしながらも、夜が訪れるまで西の空を眺め続けた。

 

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