*

「母親だから感謝しなきゃ」の危険性

公開日: :

 きむらえりですこんばんは。

今日は母の日ということで、私のFacebookには例年通り「お母さんって素晴らしい存在だなと思います。」「やっぱり親には感謝しなきゃ♡」というコメントと共に素敵なプレゼントや綺麗なお母様方の写真が何十枚も流れてきて、とっても微笑ましい気持ちになります。

7e00bc4f4648a99f715ccbc1c917ecde_s

さて、日本における年間の児童虐待件数はなんと6万件。そして、加害者の半数以上は実の母親です。

ということは、「素晴らしい母親」によって辛い思いをする子どもは3万人以上。この矛盾をどう捉えたら良いのでしょうか。

 

児童虐待の原因

a0fb1057f89f304fdd3c75dbc0a874cc_s

虐待の原因は、主に経済的な要因、夫や友人ら周りからのサポートの薄さ、乳幼児や障がい児などの子ども側の育てにくさなどが知られています。

そして、興味深いことに「母親の愛情は無条件」という考え方も、虐待に影響することが研究で明らかにされているのです。

 

「母性」が母親を追いつめる

mother_and_child

研究によれば、

「母親は育児に専念することが第一」「子どものためならどんなことでもするのが母親」「母親の愛情は無条件」

そんな「母性愛」を信じてやまない姿勢は、子どもが正常に育っているうちは「良い子育て」をするためのエネルギーになります。しかし子どもの育ち方に問題を感じたり、自分の思うように育たない場合、

そのような母性愛はネガティブに働き、子どもへの怒りを抑えられなくなる原因になると述べられています。

母親自身が良い母親でいなくちゃと思うあまり、子どもに対しても「良い子ども」を押し付けてしまう…ということ。そうして、子どもとの感情のすれ違いがピークに達すれば、子どもの感性をないがしろにする虐待や思春期になった子どもの非行の原因になります。

b5dc635839ed0259b97df29088a86847_s

このような事実に気付くことなく、(少なくとも私の周りの)多くの人は、母親だから感謝することを当たり前に感じています。

もちろん、自発的に「母親に感謝したい」と思うことは素晴らしいことだし、その感覚をいつまでも大切にするのって本当にキレイ。

けれど、「母親だから感謝するのは当然」「育ててくれた母親を絶対に尊敬しなきゃいけない」という考え方は、今子どもがいる人にとってもこれから子どもを持つ人にとってもただの危険思想です。

「母親の○○なところは認められないけれど、××なところは見習いたい」という発想の方がよっぽどまともなんじゃないかと感じます。

 

母親だって人間だ

a0002_002942

私自身の母親は、決して完璧ではありません。

以前にも書いたのですが(http://mlabo.net/wp/2014/02/2666/)、私は親から徹底的な否定を受けて育ち、高校生の時には母親が心から怖くて嫌いで、家に居場所のない生活を送っていました。

そしてそんな時に私を救ってくれたのは、「母親だって人間なんだから合う合わないはあるよね」という友人の言葉でした。

母親の期待に応えられない自分自身への絶望や、無茶な要求をしてくる母親への怒りで毎日鬱々と過ごしていた私は、友人の言葉に強い衝撃を受けたと同時に、ふっと肩の荷が下りるのを感じたことを覚えています。

 

「母親らしさ」というフィルターを取って見えるもの

939a5c9d788a2d1a05e53a723ad56b45_s

そんな考え方を知って初めて、母親が「母親らしくいなきゃ」と強く思っていることを感じるようになり、また自分が幼少期に否定されていたことは、母親自身が育児に追い詰められていたことが原因(なんせ子供3人もいるので)だと、客観的にみられるようになりました。

そしてようやく私自身が母親に対して「まあ、昔は大変だったし仕方なかったよね」と思えるようになり、母親も育児負担が減ったことで気持ちの余裕ができたのか、否定的な言葉を使うことがほとんど無くなった最近。

一生懸命育ててくれたことへの感謝の気持ちはありますが、それでも私と母親の間にできた溝は完全には埋まらないし、何より切ないのは、母親が追いつめられていた時に「肩肘張らずに子育てして良いんだよ」と諭してくれる存在が彼女の前にいなかったことです。

 

母子の関係に多様性を

a0001_006364

母性愛をあまりにも信仰することは危険。そしてその危険性を真っ先に察知できるのは、多くの母子と関わる医療者なのではないかと感じます。

だからこそ医療者が率先して、「母性愛」に囚われなくても良いことを母親に伝えつつ、地域と連携しながら、親が「子育てしたい!」と思える環境を整えていくことが必要なのではないかと感じます。

学生の私は、普段の忙しい医療業務の中でどこまでの母子ケアができるのか分からないけれど、

少なくとも「母親は無条件に素晴らしいものだ!」という価値観から一刻も早く医療者・医療系学生が脱出することは、

今追い詰められている母親、これから子育てするであろう母親、そして誰より、これからの世代を担うであろう子ども達のために、必須なのではないかなと感じる今日この頃です。

 

※ 今回は母の日に合わせた記事のため、母親が「いる」という前提の文章となっております。何らかの事情でそもそも母親がいない方にとって不快な文章になってしまった可能性があることを、心よりお詫び申し上げます。

『参考文献』
江上園子(2005),幼児を持つ母親の「母性愛」信奉傾向と養育状況における感情制御不全,発達心理学研究16(2)122-134
田口(袴田)理恵・河原智江,西留美子(2014),虐待的行為指標の妥当性の検討―母親の虐待的行為得点と社会経済的状況,育児感情の関連―,共立女子大学看護学雑誌11-8
上野加央里・長尾光城(2010),看護師の児童虐待認識に関する研究―虐待発見に必要な対策―,川崎医療福祉学会誌19(2)379-385

関連記事

self-driving-car-07

Googleの無人自動車の奇跡と私達が考えるべき3つの事

皆様、今Googleが開発している『自動運転車』という車を御存知でしょうか? 運転手が運転しなくて

記事を読む

WS000041

世の中の就活は変わってきているらしい。

逆求人、動画で自己PR、サイトを立ち上げ自分就活?どうやら、世間の就活は少しずつ変わってきているらし

記事を読む

addiction-71575_1280

薬学生が知っておくべき医薬品業界の「現状」とは?

そろそろ2016年卒の学生さんの就職活動のシーズンを迎えますが、これから就職活動を始められる薬学生の

記事を読む

images-2

子育てと仕事の両立

今の日本社会における最大の課題は少子化だ。 少子化に高齢化が加わることで、人口構成のアンバラン

記事を読む

cimg4849

勉強さえできれば人生勝ち組?

小学生のころ、学年 No.1 の人気者だったあの人のこと、覚えてますか? それ、「走るのが一番速か

記事を読む

home_healthcare

在宅医療現場を1ヶ月回っていて考えたこと。

病院とは違って、在宅医療だから家で過ごす高齢者を多く診させてもらった。   多くの

記事を読む

circle_shelf

元読書嫌いの医学生が本に目覚めた3つの理由

 『本は真面目ちゃんしかよまねぇーよ』と読書をバカにして  大学二年生まで記憶に乗っている読んだ本

記事を読む

Lady-Gaga-ARTPOP

レディー・ガガに学ぶ!ソーシャルビジネス戦略とは?

 LADY GAGAってどんな人? タイトルにえっ?と思った方。レディー・ガガという人物はご存

記事を読む

75999_07-01kobuchi

『別に学生の内に何かを成し遂げる必要なんて無い』

最近、学生生活について書く事が多く、周りの方とよく学生生活について話す事が多くなりました。その中でと

記事を読む

WS000088

記憶を思い込む事の怖さ-TED「記憶のフィクション性」エリザベス・ロフタス

どうも、厄年を迎えて3ヶ月の中途絶える事なく次と次と不運が訪れる森です。今度厄払いに行きます。 &

記事を読む

IMG_3141
医師に英語は必要か?

医師に英語は必要か? 医者であれば、英語を話せて当たり前じゃない

IMG_0047_rs
治験を紹介されるまでに知っておきたい、メリット・デメリットの考え方

Medical Warriorsの代表である長谷山貴博。治験に

e98e5089cd6e99f5f2528c6b61d167fa195cb8af
難病患者による、難病患者のための「Dr.NEAR」クラウドファンディング開始

難病患者さんがどんなことに困っているか知っていますか? 前に、人

寿司??
「米1粒の寿司握れ」これが医師採用試験!?医学生の反応や病院側の求める人材とは?

こんにちは。医学生の大塚勇輝です。 先週、Yahooニュースのト

www_aisei_co_jp_Portals_0_images_pages_user_efforts_magazine_HGM17_pdf
全ページが中吊り広告!?『ヘルス・グラフィックマガジン』の作製者に聞く、熱のあるフリーマガジンの作り方

「なんだ・・・このクオリティーの高さは!」このフリーマガジンを見たほと

→もっと見る

PAGE TOP ↑