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国立と私立における医学部の教育意義の違いとは

公開日: : 最終更新日:2014/08/12

初めまして、九州大学医学部6年の上松と申します。
今回医学部を卒業するということもあり記念にという意味も込めて、今まで書いていたブログの一記事(13年10月のもの)を掲載させて頂きました。

大手の言論プラットフォームにも載せたこともあって一度見たことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、あれから再度、自分のブログにてコメント主さんとのやりとりが深まっています。ちょっと長くてM-Laboさんのスタイルにはやや合っていないのは申し訳ないですが、是非色んな方からのご意見を頂ければと思います。

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昨今の教育界では「東北医学部新設」や「国公立入試に人間性の盛り込み」など騒がしい毎日が続いてますが、当の医学部の学生たちは、というと第108回国家試験や卒業試験に励む昔も今も変わらぬ日々を過ごしています。

そのような中、私のブログに私立大学医学部の一部は医師国家試験合格率において異常に高い成績を出しており、一割は落ちるといわれる国立大学の視点から凄いな、とブログに書いたところ、私立大学の中でも最も成績が良い(100%や99%)と指摘した埼玉医科大学の方から書き込みがありました。

たまたま目に留まりました。99とか100が続いているS医科6年です。ここ10年くらい卒業試験は元より、進級試験も相当厳しいものになっています。6年で留年は毎年10人前後です。107回でのストレート合格率は76%とかです。
カラクリは卒業試験が国家試験よりも難しいため、卒試通れば国試はまず大丈夫という縮図です。
因みに進級試験も卒業試験も合格点は65点以上です。卒試と国試という意味では、65点という点数の低さ?でも国試にはパスしちゃっています。
0.1点でも足りなければ情状酌量の余地なく杓子定規で各学年切られます。懇願なんてそんな甘いことはなく再試験は1~4年次で1回のみです。5,6年はありません。恐怖政治ならぬ、恐怖教育ってやつです。
私立医大だけでなく国公立医大からもS医科の合格率の秘訣を聞きに来るそうです。今年は某私立旧設I医科大学がS医科を真似てS医科よりも更に厳しい卒業判定にするそうで見物です。合格率が高いところは絞ってる印象があります。緩~く卒業すればそれは不合格者も多いでしょうということになります。

このコメントに対し「そうかストレート合格率は国立大学よりずっと低いのか。それは良くないことであるし、真似する大学もあるならば更に良くないことであるので、大学は落とすだけの恐怖教育はやめ、厚労省、文科省はストレート合格率(最短6年間での合格者数/入学者数)を示し、現状を是正せよ」とブログで提言したところ、さらに彼からコメントを頂きました(一部抜粋)

勉強してもやはり本試験1発で通らないと再試でもほぼ通らないことがよくあります。
例として、「再試では本試と同じような問題は出さない」といった表面的なことから、深いところでは、「試験に通らない=勉強のやり方・考え方が間違っている・絶対的な学習時間が足りていない」ということが往々にしてあります。
周りの友人や教員から良きアドバイスが貰えないか、または自身でしっかり気づき改善出来なければ負のスパイラルにどんどんはまっていきます。最悪、留年→退学ですが、主に成績不振により失意のうちに退学していったものは先輩・同期・後輩含めて何人もいます。
私見ながら、真の教育とは、こういう者をしっかりサポートし教育すべきと感じてしまいます(医学部に入学させたからには一人前の医師にさせる!)。
また、出来る人は放っておいても勝手にやってるものです。「大学は自らが進んで学ぶ場だ!」な~んて発言もありますが、裏を返せば「教育にあぐらをかいている」とも思えます。自主性ではなく放任しているだけです。
また全国の医学部の多くが某医師国家試験予備校のネット講義などを入れていると思いますが、「大学での教育の意義は?」と思ってしまいます。学生にとっては自分にとって価値あるものを取捨選択し情報収集するだけでしょうが。

テーマは「大学の教育の意義」になると思いますが、ハッとさせられたのはコメント主さんの一言。

医学部に入学させたからには一人前の医師にさせる!

ああ、そういうことか、と気付かされました。ここに私立と国立の2人の学生の感覚の違いが端的に表れていると思います。まず「大学の教育の意義」を

「私立大学医学部と国立大学医学部の顧客の違い」

から議論を進めていこうと思います。

簡単にするため、ここでの私立大学医学部は私立医科大学で例をコメント主さんの埼玉医科大学、国立大学医学部は旧帝国大学で例を私が通う九州大学にしようと思います。

まず埼玉医科大学

顧客(の一部)が学生になっている可能性が高いです(埼玉医科大学の24年度収支決算書)。

医学生は1人当たり6年間で授業料を4350万円+αを支払うことになります。その額を払ってまで私立大学医学部に入学するのは

・家庭内資金が潤沢で医師になりたいと思う方
・親が開業医で初期費用(開業費用)をかけずに家業を継げる方
・金銭的に無理をしてでも医師になりたいと思う方

なので恐らく学生の思いは「早く一人前の医者になりたい。(一部の方は学費以上に稼ぐようになりたい)」でしょう。

学生は顧客になるので大学はなんとしても学生の要望に応えなければなりません。

そうなると、国立大学医学部の学生も受けているビデオ講座の価格は4年生5年生6年生の受講を合わせても10万円を超さないわけですから、彩の国さんがおっしゃるように、国試用に学生に予備校のビデオ講座を受けさせて、学年末試験や卒試だけを難しくするだけのような教育であればその残りの4340万円はどこにいったと訝しむのも当然ですし更に、ストレート合格率も76%となると、それはもはや詐欺的と言っても言い過ぎではないように思います。学生が

「医学部に入学させたからには一人前の医師にさせろ!」

と思うのも当然ですし、大学は学生の要望する「一人前の(稼げる)医師」の養成のために

「勉強についていけない方への徹底したサポート」を加えた上での「国試合格」に加え、「英会話」や「経営能力」などいわゆる「デキる(稼げる)医師」の養成に注力するのが大学の仕事だと思います。

それをせずに「大学は自らが進んで学ぶ場だ」と発言するのは「教育にあぐらをかいている」という以上に

「今の医学部制度(自由な医学部創設が制限されている制度、国民皆保険の現状の診療点数上、医師に一定以上の収入が保証されていること、それで放っておいても受験生達が集まって来ること)にあぐらをかいている」

のだと思いますし、恐らく同じことを続けていると、制度の変更に伴って志望学生の数が激減することぐらいは簡単に予見できます。そのことからも、コメント主さんがおっしゃるように埼玉医科大学は「大学の教育の意義」を示せていないようです。

 
さてこれに対比されるのが国立大学(例を九州大学)です。

顧客は国だといっても差し支えがないと思います。

1人当たり学生が払うお金は6年間で350万円程です。私立大学に比して授業料は雀の涙です。残りは全て国が負担してくれています。

ここでは「医学部に入学させたからには一人前の医師にさせろ!」といおうものなら「お前何言っちゃってん」のレベルです(そうだねウンウンと頷いてくれる仙人様のような教授もいらっしゃると思いますが)。学生はお金を払ってないわけですから。

また九州大学に入学しているのは
・俺/私は名医になるんだ、名医になるには旧帝だ!
という人もいるとは思いますが
・とりあえず家から近いし、勉強出来たから
・とりあえず医者になりたいし、勉強出来たから
・とりあえず金ないけど医者になりたいし、勉強出来たから
・6年間の遊ぶ猶予もらえるし、勉強出来たから

が多くを占めると思います。偏差値高いところにいけばある程度尊敬されるし、医師の世界でも有利という理由もあろうかと思いますが、ようはそんなに

「一人前の医師にならねば」

と切羽詰まった事情を背負っている人は少ないと思います。

また国の要請も恐らく「一人前の医師を養成しろ」ではないと思います。

厚労省や文科省の方に聞いているわけではないですが、昨今に文科省が発表した10大学に100億円や、22大学への助成金差別分配などをみても

「論文の質・数(研究力)」を重視しているように思います。「研究力」を言い換えると「新しい事を発見し、証明・実証できる力」だと思いますし

「研究」によって「社会(公益)へのインパクト」

を積み上げよという要請が聞こえてくるようです。

実際に医学部に限定しても全国に医師免許を持つものが30万人近くいる(働いてない人含む)わけで、1人の医師として働くよりも「薬・機器の開発」や「効率化システムの考案」などで全国の医師の効率を1%ずつ向上させるだけで3000人分の医師としての仕事をしたことになります。

国にとってもそっちの方が良いという判断で研究助成金などを交付するわけです。(多くの大学の先輩方は医師として一人前以上に働きながら、研究でも成果を出すスーパーマン的な働きをしています。自分にはとても真似できません。)

もちろん、実際の多くの医学生にとってはそんなことはどうでもよく、

はやく医者になって健康で文化的な医者ライフを送りたいのが実情といったところなので、国立大学の学部の仕事は

「学生に新しい事を発見・研究することに興味を持たせて、そのための育成をする」

ことだと思います。だから、あまり、いわゆる「デキる医師」を養成しようとはせずに(すぐ役に立つものはすぐに役に立たなくなるという考えの下、たぶん)

それよりかは、教養などの自分や社会を普遍的に見つめる力を幅広い視点で身につけさせることには熱心だったりします。「実技能力」や「英会話」や「経営力」といったものより、もうすこし、自分やその周りを掘り下げて

「いかに新しい価値を見つけるか」、さらには「挑戦する力」「失敗から学び取る力」の基礎を優先しているように思います(優先というよりは、デキる医師の養成をしてないだけとも思いますが)。

なので学生がこれをやりたいとか知りたいと言えば非常に協力的だったりします。

それは、(国からの要請というよりかは)ただ純粋に研究が好きで学生が興味を持つことに好意的な度量の深い方が多いからだとも思います。今まで色々遊びに行っては3桁を超える先生方(学外含む)にお世話になりました。しかも、ご自身の研究でお忙しいのにも関わらず、長い時間熱心に色々な事を教えて頂きました。

1人だけ、私が作って持っていた企画書を学部の機材を使わせる代わりに自分の特許・実績にするよう書き変えを指示した挙げ句、口だけの無能っぷりで研究の進展を邪魔し、さらには私という学生に開発促進費や人脈などをせびる教員を名乗る下衆がいましたが、私は機材に関して他の学部の先生方に協力を仰げたからよかったですが、もし後輩達にも同じことをしたらその時には遠慮なく大学から退場して頂きたいと思っています(九大出身でも医学部出身でもなく、実績もなく大学5年の雇い止めを目前に焦っていたのは察しますが、それでもそういうのはよろしくないです)

逆に言えばこれだけ多くの先生方がいらっしゃる大学の中で99%以上の先生方には、とても好意的に迎えて頂いたことはかなり自分の中で印象に残っています。

これが九州大学が旧帝国大学たる所以だと思います。なにかをしたいと思う者には門戸が開かれてるカンジ。

だから私はコメント主さんの

医学部に入学させたからには一人前の医師にさせる!

という一文を見た時に違和感を感じました。国立大学からそんな一言が出ようはずがないからです。勿論、どうせ聞かない授業で縛らないで欲しい(私は友人に何度もフォローしてもらったりしてますが)とか、もういっそのこと国試用には予備校の授業に任せて、卒試も国試に準じた形にして授業では各医局の面白い話でいいんじゃないかとか思ったりしますが、基本的には大学の教育に満足していますし、感謝しています。なにより大学生活は楽しかったです。

これからどんな制度に変わろうと九大には多くの受験生が集まるだけの「大学の教育の意義」は果たしていると思います。
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以上が私からみた私立大学医学部と国立大学医学部の比較です。、6年間の大学生活を終えて、卒業式を目前としている今も同じ感想を持っています。是非、色々なご意見をお聞かせ下さい。私のブログにてお待ちしてます。

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