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「マラリアで死んだ人は、実際のところ、統計より少ないんだぜ。」

公開日: : 最終更新日:2014/12/28

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タンザニア領海に浮かぶザンジバル島、その北端にヌングイという村がある。時系列的には前回の記事(マラウイ)より少々遡るが、9月の半ば、高校の同級生3人と共に1週間の大登山を終えた僕は、この穏やかな海辺でのんびり療養していた。

(登山云々に関しては個人ブログ参照→DOCTORinEMBRYO

「ダラダラ」と呼ばれる乗り合いバスから眺める道路沿いの景色は長閑な田舎のそれであったが、ひとたびビーチへと繰り出せば高級ホテルとレストランが軒を並べた。遠浅の砂浜は石灰のように白く、海は透き通るようなエメラルドグリーンで、その美しさ故にザンジバル屈指のリゾート地として知られている。

そんなヌングイのホワイトビーチで、ひょんなことから1人のタンザニア人と仲良くなった。仲良く、と言っても彼とは半日話したきりで、現に互いの名前もfacebookも知らない訳だが、不思議と気が合う奴だった。

彼は僕と同じ歳で、アメリカの大学に留学していると言った。出身はモシ(キリマンジャロの麓の街)だが、ホリデーで彼女と一緒にザンジバル観光をしているそうだ。留学中だけあって彼のアメリカナイズドされた英語はネイティブ並に流暢だった。最初はお互いの自己紹介的な話を続けたが、「せっかくならこの機会に思い切ったこと聞いちゃおう」と思い立った僕は、彼に「ぶっちゃけどうなの?」的質問を繰り返した。

例えば、

・「アフリカ人にとって『アフリカ』っぽいってイメージする場所はどこ?」→「貧困とかの話ならウガンダかなあ、音楽ならナイジェリア」

・「髪の毛伸ばさないの?」→「髪伸ばしたら親に殺されるwww」

 (※いわゆるラスタマンスタイルのドレッドヘアーは若者の間では不良的な位置づけらしい)

・「黒人なら騙されたりボられたりしない?」→「ザンジバルではおれもボラれまくってる(笑)」

・「白人の女の子と黒人の女の子、どっちが好き?」→「俺は白人の子が好きだ!」

・「黒人も日焼けするの?」→「するぜ!(笑)」

・・・といった具合に、ともすると「人種主義野郎!」なんて罵られそうな思い切ったことを聞いてみた。当時の手日記を開いて振り返ってみる今、随分と色々ギリギリな質問をしていたようで驚かされる。同世代だからこそできたんだなあ、と思う。

そんな会話の流れの中で、マラリアについても尋ねた。

「マラリアは風邪みたいなものだよ。皆一度はかかってる。」

更に彼は続けた。

「マラリアで死んだ人は、実際のところ、統計より少ないんだぜ。」

彼が言うには、「エイズによる死」の隠蔽に「マラリア」を使う人が少なくないらしい。「何処何処の誰々はエイズで死んだらしい」なんて噂が立ち蔑まされるのを恐れ、家族や親族がそうさせるのだと言う。

僕はこの話を全面的に信じた訳ではないが(現にマラリア死亡者のほとんどが小児である)、「エイズを隠す」という話はケニアのキベラスラムでも耳にした。そんなコミュニティ内での圧力が統計に何らかの影響を及ぼしていたとしても不思議ではないし、可能性としてはあり得るのかもしれない。仮にこれが都市伝説の類だったとしても、彼のような聡明な若者ですら「マラリア」という世界三大感染症の一角に対しそんなイメージを持っているという事実は憂うべきものであろう。

 

マラリア(2009年)

   1. (1)年間罹患者数 2億2,500万人

2. (2)年間死亡者数 約78万人

[2010年 WHO世界マラリア報告書より]

 

無理矢理な一般化と偏り気味な極論になるが、およそ全ての物事には疑う余地はあるのではないか、と彼との会話を通して感じた。マスメディアの放送云々はよく謳われてることだが、こうした絶対的に見える数字にだって、他意はなくとも別のストーリーがあるのかもしれない。

「中立を保て」というメッセージでは決してない。「中立」ですら1つの立場だ。ただ、何かを信頼し、そこに具体的な行動が伴う時、それがどの情報や価値に基づいているのか、という意識は持って然るべきと感じた。特に「生きること・死ぬこと」なんていう人生の根幹に深く関わり得る医療職人は尚更だろう。

ちなみに、僕はこの1週間後、マラリアに感染した。

(ライター 医学科 井口明)

次話:ゾンバ中央病院で

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