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呪術師と惚れ薬

公開日: : 最終更新日:2013/12/30

なんだか売れないラノベのタイトルのようだが、アフリカの小国・マラウィでの出来事である。

 

読者方は「呪術師」というのをご存知だろうか?

魑魅魍魎なアフリカの世界では、飛行機が毎日空を飛び、人間が月にまで足跡を残せるようになった現代においても、「呪術」なるものが信じられている。田舎へ行けばもちろん、ナイロビのような大都会でもその一端を垣間見ることができ、それほどまでに呪術信仰は深く根強く、アフリカを語る上で外せないエッセンスの一つである(と僕は思っている)。

彼ら呪術師は「ウィッチドクター」や「ブッシュドクター」と呼ばれ、木の皮を煎じて造った薬を処方したり、シャーマン的な役割を果たしたり、時には誰かを呪い殺すような依頼をも受ける(と僕は聞いた)。

「ウィッチドクターは病院に通えない低所得層に、より信じられている」

僕は勝手にそう思い込んでいたが、仲良くなった地元の人々に話を聞くとどうやらそれだけが真実ではないようだった。

確かに、ウィッチドクターでは完治まで薬をもらいに通い続ける必要があるが、病院なら錠剤でまとめて処方してくれる。即ち分かり易いしイージーだ。

加えて、「偽者」のウィッチドクターもかなりの数いるらしく、実際にマーケットなどには効きもしない呪術薬がたくさんあるらしい。ウィッチドクター界も金・金・金の資本主義な昨今、相当な苦労を強いられているそうである。

事実、所謂「中流」くらいのマラウィ人に「もし病気になった時、病院とウィッチドクターどっちに行く?」と尋ねると、「病院」という答えがほとんどだった。

だが、「じゃあウィッチドクターは行かないの?」と聞くと、これがオモシロいことに、僕統計だと100%「ノー!」と答えが返ってくるのだ。その理由はうやむやにされたりでイマイチよく伝わらなかったが、伝統医療を信じている部分は少なからずあるようだった。

理屈や理論ではなく、単なる感情でもまたない、このアフリカっぽさ。「観光地や見所が少ない」と旅行者には敬遠されがちなアフリカ大陸であるが、こういう部分が僕にはすごく魅力的だ。

というわけで、アフリカの伝統医療への興味、呪術なるものへの好奇心、魑魅魍魎なアフリカのシークレットソサイエティへの扉を開けたいという願望…そういった諸々が僕を呪術師の元へと駆り立てた。

….そしてもう一つ、僕が呪術に魅入られた大きな理由があった。いや、あえて告白しよう、このもう一つの理由がかなりの割合を占めていた。

読者方は「惚れ薬」なる薬をご存知だろうか?

風の噂でこのアフリカの呪術師たちは、なんと「惚れ薬」を作ることができるのだ、と耳にした。考えてみて欲しい。「惚れ薬」だ。「惚れ薬」なのだ。男だったら分かるだろう、少年時代から幾度と無く夢想した夢の3大アイテム『透明マント』『スケルトンメガネ』『惚れ薬』。どうやら前二者は現代科学技術じゃ不可能そうだぞと思っていたが、なんと最後の一つは実在するというのだ。そしてなんとそれを使って細君を手に入れた、というツワモノにまで会った。

「如何なる犠牲を払ってでもこれは手に入れるしかない」、僕の脳が、体が、細胞が、そう直感を告げた。

といっても、呪術師探しは困難を極めた。市場の偽者と違って、本物の彼らの大半は町から離れた村に住んでいることが通例らしい。どうせならゾンバで一番高名な呪術師にお会いしたい、そう思い、仲良くなった人からの紹介を繰り返し、ようやく確かな手がかりを得たのは最終日直前のことだった。

その村はゾンバから車で数十分離れたところにあった。赤土未舗装の細い道を家々の間を縫うように車で進んでいくと、現地語で何やらが書かれた看板が目に入った。一見何の変哲もない小さな家だったが、ここがまさにその診療所だった。

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高まる興奮を抑えながら、握手を交わす。彼の名はウィリアム。一見若く見えるが、奥さんや子供の年齢を考えると意外に歳なのかもしれない。とにかく、不思議な雰囲気の男だった。

彼が処方や調合に使う「呪術部屋」は想像していたような「呪術っぽい感じ」ではなく、普通の小部屋の隅に沢山の薬瓶のような物が並べられているというシンプルなひんやりした部屋だった。薬瓶の中には謎の黒い液体や、鮮やかな色をした謎の粉末や、何に使うのか見当もつかない様々な薬が詰められていた。壁にはパスポートのように顔写真つきで「呪術師の免許証」が飾られていた。

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ウィリアムが呪術師として目覚めたキッカケは「一度死んだこと」だったそうだ。ぶっ飛びすぎていてイマイチよく分からない説明だったが、夢の中で死に、目覚めると薬剤の調合法を知っていた、と言う。

ウィリアムは英語が話せないので、運転手に通訳を頼みいくつか質問をした後、「惚れ薬を作ってもらいたくて日本から来ました」とあながち嘘でもない用件を伝えた。すると「君が診療所の扉をくぐったときからそうだと思っていた」と言われた。呪術師にはそういう力があるのだそうだ。

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木炭のような物を削ったり、それと黒い粉末を混ぜたりと、10分程の調合の後、2片の紙に包まれた惚れ薬を処方された。受け取り方にもルールがあり、1つは部屋を出る時に右足で踏んだ後に左手で拾わされ、もう片方はウィリアムから奪い取るようにして受け取った。

てっきり飲み薬が出てくるものだと思い込んでいたが、ウィリアム作・惚れ薬は水に溶かして顔に塗るものと胸元に傷をつけそこに塗り込むものの2種類だった。扱いにも細かく指示され、特に「セックスをする時は身につけていてはならない」という点についてしつこく説明を受けた。

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こうして日本から持ってきたクロマチックハーモニカと引き換えに、僕はマラウィの秘薬・惚れ薬を得た。「君はまたマラウィに来る運命だから、その時はジャパニーズ携帯を持ってきてくれ」、別れ際にウィリアムにそう言われた。なんとも不思議な体験だった。

2つの惚れ薬は帰国した今もまだ未開封の状態で僕のパスポートの間に挟んである。願わくば、これを使おうと思うような女性と出会えることばかりだ。

 

 次話:「マラリアで死んだ人は、実際のところ、統計より少ないんだぜ。」

医学生のアフリカ旅|旅の始まりはこちらへ「1年間休学させてください」 

(ライター 医学科 井口明)

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