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キスム訪問記

公開日: : 最終更新日:2014/12/28

ケニアの首都ナイロビにかれこれ計40日近く滞在、というバックパッカーとは思えぬ長期滞在生活終盤戦のこと。出国前から連絡を取らせて頂き、ここまでの旅中ずっとお会いするのを楽しみにしていた方との出会いが終に実った。

杉下智彦先生

東北大出身の氏は協力隊派遣で外科医師としてアフリカ南部の小国・マラウィで3年間臨床活動された後、公衆衛生・国際保険の専門家としてJICAで働かれていた。アフリカでの国際協力を始めてから16年、というスゴイ人だ。

以前「医師を志す理由」を文字に起こしたことがあるが、自分が将来的に海外で医療活動に携わることに、迷いと葛藤をずっと抱えていた。ほんとにそれでいいのか、ほんとに覚悟はあるのか、と。そんなまさに「自分のやりたいこと」を、御自身の哲学を掲げながら長年されている大先輩に、そんな思いと疑問をぶつけてこようと、この滅多に得られない有難いチャンスに期待していたのだった。

8月17日、ナイロビにある先生のお宅に伺い、JICA専門家の方々との夕食会に参加させて頂いた。この日初めてお会いしたのだが、とても気さくな方で、アフリカの医療の話から全長8mの巨大人食いワニ・ギュンター君の話まで、話題の尽きない夜だった。帰り道、車で宿まで送ってもらった時に、ケニア西部の小都市「キスム」で26日から日本人医学生のインターン受け入れがあることを聞き、それに少しだけ参加させて頂けることになった。

そして26日。ギコンバマーケットで買ったバックパックに最小限の荷物を詰め込んで車に飛び乗った。約8時間の道中の景色は実に見ていて飽きないもので、大都会ナイロビを抜け数時間走ると、大地溝帯を見渡せる山沿いの一本道に出た。幅35~100km、総延長7000kmにも及ぶ巨大なプレート境界。地球の裂け目。スケールがデカすぎる。思わずため息が出る風景っていうのは、こういうものなんだろうなあ、なんて思いながら眺めた。

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多くの活火山に囲まれたその溝へ降りると一気に気候が変わった。水平距離の移動に対して高度が大きく変動するこの地では、動植物が自身に適した環境を探して旅していたのだろう。大地溝帯が人類発祥の地だというのも聞いたことがある。そんな悠久の時に思いを馳せながら、牛を巧みに扱うマサイを眺めながら、突き抜けるようなアフリカ空の下を車は時速140kmで進んで行った。

 

キスムの標高は1000m程度。1700mのナイロビから随分と下がるだけあって、徐々に暑くなってきた。途中、一面の紅茶畑の間を抜けて走った。アフリカではケニアのここが茶葉の最大産地で、かの有名なリプトンの所有地だという。そう言われてみると、茶畑の奥に見える従業者の住居は確かにイギリスチックだ。この広大すぎる茶畑を世界遺産登録しようという話もあるらしい。

 

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キスムに到着したのは夕時。沈み始めた太陽がはじめて見るビクトリア湖を眩く照らしていた。先日訪問したティカよりもやや小さい、空気が美味しい湖畔の田舎町。ナイロビを東京とすると、キスムは秋田といったところだろうか。どこか懐かしい、心安らぐ雰囲気を感じる。

1週間のインターンで日本各地の医大から集まった学生たちもこの日到着したそうで、到着したその足で夕食会に参加させていただくことになった。自らを“ゴージャスホテル”と名乗る小洒落たレストランで、熊本や大阪、香川や群馬と、日本各地から集まった7人の医大生と、杉下先生がキスムで主導されてるプロジェクトの専門家の方々と初対面。秋田の地でアフリカの医療の話なんかすると完全マイノリティーだっただけに、似通った志をもった同世代の医学生との出会いはテンションが上がる。すぐに打ち解けて会話に花を咲かせた。

酔いも手伝って咲き乱れる会話の中、印象的だった話がある。隣に座っていた杉下先生に「アフリカの魅力」を尋ねてみたところ、

「魑魅魍魎・ノーロジック・ワケワカラン、そんなSecretSocietyとリズムがあるのはアフリカ独自の魅力で、剥き出しの『人間』を感じられる」

と、先生はそう語っていた。アフリカにいると、そんな「真のアフリカ」への扉が開く瞬間というのが訪れるらしい。やっぱり、アフリカ、アツい。

 

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翌朝はキスムのJICAオフィスにて杉下先生によるプロジェクト説明会に参加した。人間にとって暮らしやすい環境は、病原菌・寄生虫の類にとっても同様であるようで、キスムはケニア国内でもマラリア感染率やHIV感染率が高い地だ。

キスムでは世界最先端の熱帯医学研究が行われ、現にマラリアのワクチン開発は相当進んでいるそうだ。にも関わらず、ケニア全体での医療レベルは低く、格差は否めないのが現状だと言う。

そんな地で行われているこの国際保険プロジェクトでは、5人の専門家によって全体的な医療システム整備が為されており、『アフリカの人々が保険をどう思っているか』という地に足の着いた形で、『対話』を重視しての支援を意識しているそうだ。日本・ケニア政府からも承認されており、キスムでの改革からケニア、ひいてはアフリカ全土を変えていくのが最終目標らしい。

スライドによるプロジェクト説明の中には、プロジェクトそのもののみではなく、生活者として地元に根付いて暮らしている杉下先生ならではの目線で、もっと広く深く教訓になるようなテーマも多々含まれていた。

「『THINK OUT OF BOX』 科学主義だけでなくアフリカに根付いた伝統文化にもっと目を向けるべきではないか」、マラウィでの3年間で、先進国で行われているような最高率の先端医療が必ずしもアフリカでの医療・公衆衛生に適用できないことを杉下先生は感じたそうで、呪術信仰が依然として強い田舎ではそういった伝統を汲んだ形のシステムが必要であることを、自ら呪術師の元で修行と対話を積んだ氏は語っていた。

「『WholeSyetemApproach』皆の中に答えがあればそれでいい、結論を出すことだけが正解じゃない」、学んだコトを捨てる選択し白紙に戻ること(Unlearn)、そして「アクション」を起こすことが大事であると杉下先生は言う。ちっちゃいアイディアに情熱を注いでいく、そうやって起こした自分自身の『ACT』、そしてそこから紡ぎだされた『FEEL』、それが結局世界の全てなんだ、と。

『問題』から始まると他人事のようになってしまう。けれど『未来(ビジョン)』から始まると一体感が生まれる。結局「解決」というのは自分自身のモノで、答えは既に持っているものなのだ、と先生は語っていた。

医療のみでなく、国際協力において重要なのは『対話』、話の中で何度も繰り返されていた言葉だ。僕らが援助でアフリカを「アフリカ」にしている可能性もあるわけで、見えているコトの裏側にあるものの探求が必要であること、即ちその手段としての対話の重要性を訴えていた。自分の「意味」は必ずしも他人の「意味」ではない。対話し「意味」を共有すること、「ウィッチクラフト」や「ポストコロニアリズム」が混在するこの大陸において、それこそが『アフリカ』を読み解く鍵であると言う。「人間」としてのアフリカを相手にしてるのか、「経済」としてのアフリカを相手にしているのか、アプローチの違いは意識すべきだと先生は語っていた。

 

 

今回のキスム訪問、本当に学び多い時間を過ごすことができた。自分と同じように国際医療に関心を持つ学生と出会えたこと、共有できるものが多い彼らとの出会いは楽しく、心強いものだった。そしてそれ以上に、杉下先生とたくさん「対話」できた事実は、自分の芯を育てたように思う。

ずっと迷っていた。海外で医療活動をしたい、けれど日本を離れる覚悟はあるのか、と。地域医療しながら時々ボランティアで海外行こうかな、と、今思えば「理由もなく日本に拘るのはダサい」とか言いながら一番拘っていたのは自分自身だった。カッコイイ、楽しそう、理由はシンプルでいい。あとは覚悟、世界で生きていく覚悟、それが固まった気がしている。

帰りのバスの中の窓際の席。「地球の溝」の底から見える星空を眺めながら、心に抱いたちっちゃな始まりの決意。今までの悩みと迷いは夜の闇に溶けていった。

 次話:呪術師と惚れ薬 

医学生のアフリカ旅|旅の始まりはこちらへ「1年間休学させてください」

(ライター 医学科 井口明)

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