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サハラ砂漠の小さな村で。

公開日: : 最終更新日:2014/12/28

エジプト首都・喧噪のカイロを離れ、17時間強のバス移動を経て辿り着いた南部の港町・アスワン。アスワンハイダムと呼ばれる大型ダムの向こう側には、ナイル川を上流へと遡ってゆくフェリーが往来している。週1便のフェリーが向かう先はスーダン。広大なサハラ砂漠が広がる、イスラムの国だ。

 

エジプトとスーダンは陸地で繋がっているのだが、両国の関係上からか、移動手段はこのフェリーのみである。チケット購入に2週間かかりようやく乗船したその「国際船」は想像以上にボロく、また想像以上の人でごった返していた。甲板までもが寝場所を確保しようと躍起になる人と彼らの荷物で埋め尽くされ、船内ともなると大の大人が子供のように陣取り合戦を繰り広げ、至る所から喧嘩の怒号が聞こえてくる。そんな「快適」な船旅は丸一日続いた。

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船から降り、口から思わず出た言葉は「暑い」。エジプトも十分すぎる程暑かったが、スーダンの日差しが強すぎて皮膚が痛くなるほど暑いのだ。気温で言えば50℃近い。

 

昨日までと人々が話す言葉こそ違わないが、食や通貨、雰囲気、建物、煙草の銘柄…全てがエジプトと違う。新しい国に着いたのだった。

 

ガイドブックはもちろんないし、情報も調べてない。あるのはエジプトの日本人宿でコピーしてきた、一枚の手書きの地図だけ。随分と重くなったバックパックを担ぎ、どこまでも広がるサハラの大地を眺めていると、暑さと疲れで体はバテてるはずなのに、不思議と気持ちが高鳴った。

 

 

翌日、「手付かずの廃墟化した遺跡がある」と聞き、ナイル川沿いを400キロほど南下したところにある小さな村・ソレブに向かった。町を抜けるとすぐに、車窓からの景色は緑ひとつない一面の砂漠に変わった。窓から吹き込む風がドライヤー並みの熱風で、気づけばペットボトルに入れた水がお湯になっていた。

5時間弱のドライブの末、家が数件、といった何もない砂漠の村で乗り合いバスを降ろされた。地元の人に聞くと、どうやら目的地からやや離れた川の向こう岸にある別の村らしい。文句を言っても仕方ない、と隣の村まで歩くことにしたが、計20キロはあるバックパックとギター持って炎天下の砂漠を歩くのは想定外にキツい。水はすぐなくなり、乾きに耐えながら歩き続けていると意識が朦朧とした。

30分くらい歩いただろうか、命からがらマリヤ村(家が3件しかない)に辿り着くことができた。大きな木の木陰でおじいちゃん達が昼下がりを過ごしているのを見かけ、水をもらった。砂漠の知恵なのだろうか、スーダンでは町や村の至る所に水瓶が置かれている。ちょっと白濁してはいるけれど、中は意外にもひんやり冷たいことが多い。たまにナイル川と同じ色・同じ味ではあるが。

おじいちゃんの名前はアブドゥル。この村の村長的ポジションなようだ。ゆっくり話すカタコトの英語と、これまたゆっくり話すアラビア語がかわいいらしい。そんなアブドゥルが「泊まっていきなさい」と家に招待してくれた。アブドゥル家は誰と誰がどういう関係なのか覚えきれないほどの大家族で、とかく賑やかだった。そして夕飯をご馳走になった上に、翌日の親族の結婚式にまで招待してくれた。

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翌朝、珍しく早くに目が覚めた。歩いて30秒のナイル川へ行き、ナイルの水で歯を磨き、沐浴した。朝のナイルの水面は怖いくらいに静かだ。電気の通っていないこの村では、車のエンジン音も、電気製品の音も、飛行機の音も、およそ人間が作り出す音は何一つ聞こえない。そこにあるのは、ただ、ナイル川とオアシスと謙虚に建てられた幾件かの家々。

シンプルだからこその美がそこにはあった。

結婚式会場はマリヤ村から車で20分程離れたコエンカという村で、14:00に迎えの車が来る手筈だったが、結局乗り合いタクシーが来たのは17:30。日本だったら考えられないことだが、ここでは誰も怒らず文句一つ口にしない。時間は単なる概念でしかなく、この場所にはこの場所の時の流れ方があり、それがなんだか心地よく、愛おしくすらあった。

コエンカに着くと男と女は別の家へ入って行った。アブドゥルとその息子たちが人々に僕を紹介して周ってくれた。お年寄りから子供まで、この砂漠の何処にそんなに人がいたんだ?とツッコミたくなるほど人が集まってくる。

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それから22:00ごろまで男衆の輪に入って雑談し、礼拝の時間になれば神(アッラー)に祈りをささげた。「親族の祝いの席なのに何来ちゃってんのこのアジア人?」みたいな雰囲気は一切感じず、「アキーラもイスラムになれよ!」「ウチの娘をもらってここに住みなよ!」とまで言われた。

夕食の直前、女性の家の一室で新郎新婦がベッドに腰掛け皆が祝辞を述べるメインイベントがあったのだが、新郎のおじいちゃんに至っては押し合いへし合いの中、僕を一番に部屋まで連れていってくれた。

銀盆に盛られたご馳走を皆でつつき終わり、外に出てこっそり一服していると、「暗闇は蛇がいるから危ないぞ!」とライトを持ってきてくれた。気づけばベッドをどこからともなく持ち出してきて、「アキーラ、お前はゲストだから座れ」と座らされた。

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「何でこんなに親切にしてくれるんだろう」

宴の最中、何度も思った。見ず知らずの肌の色も違う、言葉すら通じない薄汚い旅人をどうしてそこまで迎え入れてくれるのだろう。

ましてやマリヤ村・コエンカ村の人たちにとって、結婚式は単調な毎日の中で飛び切りエキサイティングなビッグイベントだ。そんな自分たちの祭に余所者を呼んで、嫌な顔ひとつしないどころか、ちょっと鬱陶しいくらいに構ってくれる。逆の立場で考えたら、当然、なかなかできることじゃない。

『人に優しくされたとき、自分の小ささを知りました』

MONGOL800の『あなたに』の歌いだし。地平線まで落ちそうなサハラの星空を見上げながら頭に浮かんだのはこのフレーズだった。嬉し泣きしそうになったのなんて、いつぶりだろうか。自分の小ささを痛感させられたが、不思議とそれも心地よかった。

 

医学生の皆さんはご存知の通り、「クオリティオブライフ」という考え方がある。

 

クオリティ・オブ・ライフ: quality of life、QOL)とは、一般に、ひとりひとりの人生の内容の質や社会的にみた生活の質のことを指し、つまりある人がどれだけ人間らしい生活や自分らしい生活を送り、人生に幸福を見出しているか、ということを尺度としてとらえる概念である。QOLの「幸福」とは、身健康、良好な人間関係、やりがいのある仕事、快適な住環境、十分な教育レクリエーション活動、レジャーなど様々な観点から計られる。

またQOLには国家の発展、個人の人権自由が保障されている度合い、居住の快適さとの関連性も指摘される。

したがってクオリティ・オブ・ライフは、個人の収入や財産を基に算出される生活水準とは分けて考えられるべきものである。

 

とWikipediaには書かれている。立派かつ重要な概念だが、こんな堅苦しく定義するようなものなのか?と彼らと過ごしていると考えさせられた。

 

鶏の声で目を覚まし、ナイルの水で顔を洗い、家畜の世話に勤しみ、日中は木陰で語らい、家族皆で食事をし、熱いチャイを飲みながら満天の星を眺める。

 

人が生きるということは、思っていたよりずっとシンプルなことではないのだろうか。QOLなんていう固苦しい横文字を用いるまでもなく、彼らは与えられた日々を丁寧に過ごしていて、それがなんだか印象的だった。

 

僕がいた当時、「あと二ヶ月後に中国の企業が電気を通してくれるんだ」とアブドゥルは嬉しそうな顔をした。もしかすると、あと200年もすればマリヤ村にも高層ビルが立ち並び、人口は一千万人を超え、地平線まで落ちそうな星空の代わりに眩いネオンがナイル川を照らすかもしれない。

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それが良いことなのか悪いことなのか、一介の訪問者である僕には分からないし、何も言えない。ただ、あの土地に住む彼らの笑顔だけは変わらないでいて欲しいと切に思った。

 

次話:「キベラスラム訪問記」

医学生のアフリカ旅|旅の始まりはこちらへ「1年間休学させてください」

(ライター 医学科 井口明)

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