*

1年間休学させてください

公開日: : 最終更新日:2014/12/28

「1年間休学させてください」

 大学1年の秋、休学申請手続きを始めた僕に対する反応はなかなか厳しいものだった。

・ 理由が何であれ、休学・留年で学年を下げることは、その後の実習などで不利

・ 秋田大学では医学教育のカリキュラムが年々改変されており、「遅れ」が発生するため、復学後に独学で学ばなければならない分野が出てくる

 上記のような具体的な「休学のリスク」を担任教授や学科の先輩から延々と聞かされた。そもそも医師不足で騒がれる現代において、たかが1年とは言えど、医師として生涯労働年数を減らす行為が簡単に許容し難いのは当たり前だろう。

 最終的に、担任教授の心ある理解と助力のおかげで僕は「休学許可証」をもらうことができたが、聞く所によれば「自由休学」を許可しない医大も多いそうで、そういう意味でも僕はラッキーだった。

 大学に入学したのは1年間の浪人を経た2010年・21歳の年だったが、華やかな気分に舞い上がっていられたのも最初の数ヶ月だった。

 

さほど意義の感じられない無機質な一般教養授業や、教科書の写経のような課題。自由選択科目に「自由」はなく、「医学生は部活に入って酒を飲みまくれば社会が分かる」と何をどう悟ったのか豪語する上級生。安泰や無難を好み、それなりに楽しければ良しとする風潮...。

 

思い描いていた「医学生」とのギャップに戸惑っている内に、気づけば自分のことばかり棚に上げ、冷めた目で周囲を傍観する自分が出来上がっていた。

夏を迎える頃、僕が最も感じていたのは”閉塞感”にも似た感情だった。批判するつもりは毛頭ないが、僕個人としては良くも悪くも医学科内で自己完結しているような風潮を感じずにはいられなかった。

 

「このまま医療関係者だけの世界で自分の人生が完結してしまうこと」、それを僕は嫌った。

 

「良い医者」の定義は難しい。技術やプロフェッショナル意識、人間性、その他いろいろな要素を統合した優れた理想の医師像。

 

「自分にとってのそれがまだ何か分からないが、少なくともそこに近づくには、このある意味”居心地の良い空間”だけに浸っていては駄目なのでは?」

 

そんな疑問と懸念が胸中をぐるぐる渦巻き、終いには「そもそも本当に医者になりたいのだろうか」と、前提すらも疑い始めていた。

 

とにかく前向きな時間が必要だと感じた。自分自身と向き合い、今一度考え直す時間。こうして、最終的に「休学し旅をする」という道を選択した。

 

 

なぜ「旅」なのか。直接的なキッカケは高2の夏に旅したインドでの経験だった。たった3週間の短すぎる旅ではあったが、ただ楽しかっただけではなく、自分の人生に大きく、広く、深く還元された。思い返せば「医者になりたい」、初めてそう感じたのもインドでのことだった。

  たかだか3週間のインドでおおまかな自分の人生の方向性が決まってしまったのだ。もし1年間、旅というツールを用いて未知の広い世界に身を置いたのなら、いったい何が得られるのだろうか、そんな妄想をするとワクワク感が止まらなかったし、「医者」という志を再確認するのに自分に最も適した手段はコレしかないと思った。

 日本に固執していては得られない”得がたい”経験をしたい。様々な人と価値に出会いたい。そしてそれを全部スポンジみたいな心で吸収して、自分の常識の壁をぶち壊したい。将来自分の子供に”ドヤ顔”で語ってやれるような、一生の武勇伝を作りたい。何より、自分が何をしたいのか、何をするべきなのか、今一度見つめ直したい—-そんな思いが僕を旅に駆り立てた。

 行き先は「アフリカ大陸」とした。

 

独裁政治や民族・宗教対立、多くの危険と異文化、経済発展に伴う格差の拡大や伝統文化の消失、砂漠化などの大規模な環境問題や移民問題、食糧難による飢餓と想像を絶する貧困・・・「アフリカ」と聞いたとき、様々な混沌がイメージとして浮かぶ。日本においてもTVや本で紹介されることは多いだろう。

 

だがしかし、本当にそれだけが真実なのだろうか。”日本にとって距離も意識も最も遠い国々”—「自分自身の目でリアルなアフリカ を見てきたい」そんな思いを強く抱いていた。

また、もともと「途上国でひとを生かし自分を生かすような仕事を」という思いから医者を志したこともあり、将来自分の医療キャリアを展開するフィールドの1つとして、アフリカを視野に入れている、というのも理由の1つだった。世界の恵まれない病める者に医療を提供できれば・・・そう考えたときアフリカ大陸は絶対に無視できない場所の1つだろう。

 

「医療系の視点からアフリカを見たいのであれば、医師免許を取ってから行けばいいじゃないか」、そう何度も言われた。座学すら習っていない当時であるから、もっともである。

だが、このタイミングで休学することは譲れないポイントだった。インドで多くを学んだが、「あの経験はあの時だったからできた」はずだ。あのタイミングじゃなかったら全く違った経験になっていたかもしれないし、あるいはその経験自体ができなかったかもしれない。人生に強烈に影響することであればあるほど、なるべく早いうちに手を染めるべき。今の自分が学べることを学ぼう。そんな思いがあった。

 

...とそれらしい理由を書き綴ってみたが、結局のところアフリカを選んだのは尊敬する旅人・石田ゆうすけさんの一言だったように思う。彼は自転車で7年半かけて世界を回った著名な旅人で、浪人していた頃にとある経緯で酒を酌み交わす機会に恵まれた。

そんな石田さんが「どこが一番良かったか、って質問に答えるのは難しいけど、アフリカは印象的だった」と缶ビールを傾けながら語っていた。その頃からアフリカに対する興味が芽生え始めたように今は思う。

 

 

休学に際し、周囲から反対こそされなかったが、理解してくれる人は少なかった。「医学生なのに〜」と医学生であることがまるで本分であるかのように人は言うが、医学生である前に僕は一人の人間で、ただ自分の生き方と選択に対して腑に落ちる納得がしたかった。なにも医学生が旅をしてはいけない道理などない。チェゲバラだってもともと医学生だ。

 

言葉では到底追いつかなかったそんな雑多の心のモヤモヤは、アブダビ経由モロッコ行の航空券を購入した瞬間、少しだけ晴れた気がした。

こうして2011年3月12日、僕の乗った飛行機は深い夜の闇へと飛び立った。

IMG_0274

次話:『初めての入院』

(ライター 井口明 医学科)

関連記事

konoyubi_gaikan

福祉業界を変えたい人必見!ー医学生おすすめのボランティア施設

帰り際の挨拶で涙がこぼれそうになった。   本当に感動した。   20年かけて富山型福祉をこ

記事を読む

IMG_6856

キスム訪問記

ケニアの首都ナイロビにかれこれ計40日近く滞在、というバックパッカーとは思えぬ長期滞在生活終盤戦のこ

記事を読む

17884794

ドラクエから学ぶキャリア術

この度、ライターに加えて頂きました。 感護師の坪田康佑です。 社会と医療を繋げるM-Laboさんだ

記事を読む

IMG_1415

カフェ起業をして感じた、お金を使わない労力が生む秘めた力

僕は、4年生の時にカフェを創設、運営しておりました。今日は学生の力を集結させて生まれたこの店の一つの

記事を読む

7dd4c3f74f006b34bb1d70d7adebd54e

初めての入院

  旅の一カ国目はモロッコだった。旅の「カン」を取り戻そうと国内各地を観光しながら一周してるうちに、

記事を読む

12275_10151191966067857_361713297_n

Cycling Africa 〜DAY 3〜

医学生のアフリカ旅|旅の始まりはこちらへ「1年間休学させてください」 ナミビアから南アフリカ共和国

記事を読む

IMG_0194

ゾンバ中央病院で。

「ゾンバへ行くのならゾンバ中央病院でインターンしてくるといい。当時の同僚がまだいるから、『ドクタース

記事を読む

image

Cycling Africa 〜DAY 4〜

医学生のアフリカ旅|旅の始まりはこちらへ「1年間休学させてください」 ナミビアから南アフリカ共和国

記事を読む

IMG_8643

Cycling Africa〜DAY1〜

 医学生のアフリカ旅|旅の始まりはこちらへ「1年間休学させてください」 ナミビアから南アフリカ共和

記事を読む

IMG_9460

呪術師と惚れ薬

なんだか売れないラノベのタイトルのようだが、アフリカの小国・マラウィでの出来事である。   読者

記事を読む

IMG_3141
医師に英語は必要か?

医師に英語は必要か? 医者であれば、英語を話せて当たり前じゃない

IMG_0047_rs
治験を紹介されるまでに知っておきたい、メリット・デメリットの考え方

Medical Warriorsの代表である長谷山貴博。治験に

e98e5089cd6e99f5f2528c6b61d167fa195cb8af
難病患者による、難病患者のための「Dr.NEAR」クラウドファンディング開始

難病患者さんがどんなことに困っているか知っていますか? 前に、人

寿司??
「米1粒の寿司握れ」これが医師採用試験!?医学生の反応や病院側の求める人材とは?

こんにちは。医学生の大塚勇輝です。 先週、Yahooニュースのト

www_aisei_co_jp_Portals_0_images_pages_user_efforts_magazine_HGM17_pdf
全ページが中吊り広告!?『ヘルス・グラフィックマガジン』の作製者に聞く、熱のあるフリーマガジンの作り方

「なんだ・・・このクオリティーの高さは!」このフリーマガジンを見たほと

→もっと見る

PAGE TOP ↑